ブロックチェーンとIoT

まだまだ検討が進んでいない分野の一つが、ブロックチェーンのIoTへの応用だろう。

IoTへの応用にどんな意味があるのか?

それを考察したのが、以下の記事です。

ブロックチェーンの応用分野として有望なIoT――直面する「課題」と「もたらされるもの」

IoTは企業戦略の問題である

ここ何回かIoTについて書いているが、マイケル・ポーターらが2014年11月に発表した「How Smart, Connected Products Are Transforming Competition」(Porter and Heppelmann)は実に重要な論説である。というのも、この論文は、IoTが企業の競争環境の変化をもたらすものであって、それに個々の企業がどう対応するかという企業戦略の問題であるということを強調しているからだ。

IoTについてはアメリカとドイツの違いなど、国ごとの戦略として紹介されることが多い。また、それに伴って日本でも国としてどうするかという観点で語られることもある。しかし、ポーターらの論文によれば、IoTは「ITによる競争環境の変化の第三の波」である。第一の波はコンピュータによる自動化、第二の波はインターネットの登場であり、第三の波を以下のように説明している。

「ITがプロダクト自体の一部分となる。製品に埋め込まれたセンサー、プロセッサー、ソフトウェア、通信機能(要するにプロダクトの中に組み込まれたコンピューターである)、それに加えてプロダクトのデータが貯蔵され、分析されるクラウド環境が、製品の機能とパフォーマンスを劇的に改善する。この改善は、製品利用に関する膨大な新しいデータにより可能になる。」(筆者訳、一部省略)

つまり、プロダクト(ここではハードウェア製品全般を指している)の中に極小のネットワーク化されたコンピュータが埋め込まれることが当たり前となる世界では、プロダクトに関わる企業の競争環境は激変するということである。

ポーター論文では「Smart, connected products」(スマートで接続された製品)という言葉を多用する。IoTという言葉では「その現象や影響を理解する上であまり有益ではない」としている。確かに、Internet of Thingsでは何が重要な要素なのか、何に影響を与える現象なのかが伝わりにくいため、Smart, connected productsを使っているのだろう。

ポーターはこの「Smart, connected products」が5つの競争要素すべてに影響を及ぼすとする。それは、新規参入、サプライヤーの交渉力、バイヤーの交渉力、代替品の脅威、そして他社との競争関係である。それは、必ずしもプラスの効果ばかりではない。企業によってはマーケットが広がったり、他社に対する競争優位性の確保することができる。一方で、別の企業では新規参入による脅威にさらされたり、先行する他社に市場を奪われるということもあるという。

つまり、IoTは企業の競争環境の変化をもたらすものであって、IoTの市場規模がいくらになるかという話にとどまるものではないということでもある(もちろん市場規模や経済効果の算出は不可能ではないだろう)。第一の波、第二の波に沿って言えば、コンピュータの発明やインターネットの普及は競争環境に大きな影響を及ぼしたが、それらの市場規模がいくらか、というのは物事をやや単純化しすぎているように感じられるのと同じことだろう。IoTにはプラスの効果とマイナスの効果があり、どのような影響があるかは企業によって大きく違う可能性があるということかもしれない。

ポーターらはこうした環境変化に取り組む企業が考えるべき10の論点を挙げている。その中には、「オープン化戦略をとるべきか、クローズド戦略をとるべきか」や「どのようなデータを扱うべきか」、「どのようにデータへのアクセス権を管理すべきか」などが含まれる。こうした選択肢への決定は、企業が個々に置かれている環境や戦略に依存するものであるということである。

第一、第二の波で見られたように、コンピュータやインターネットの普及に政府が果たした役割は、研究開発や普及の点で大きなものがあり、同様にIoTについて政府が果たせる役割もあるだろう。しかし、ポーターの論説に立脚すれば、IoTにどう取り組むかは、第一義的には各企業が置かれた状況や戦略によって決まる企業戦略の問題でもある。企業がインターネットの普及・高度化にどう向き合うかと同様に、IoTについても各企業のスタンスが問われていると言えるのかもしれない。

 

IoT黎明期における課題

「IoTまるわかり」に続いて、「決定版 インダストリー4.0」(尾木蔵人著)も読んだ。ドイツ流のインダストリー4.0と、米国流インダストリアル・インターネットの対比が参考になった。この2つの概念を、本書や、また様々なところで説明されていることを私なりに整理すると、現時点では以下のようになるようだ。

インダストリー4.0(ドイツ)=消費者のエンパワーメント

ソーシャルメディアなど個人の行動や思考の把握が容易になり、そこから個人のニーズにあった製品をカスタムで製造することができるようになる。これまでのような画一的な商品の大量生産から、スケーラビリティのあるカスタマイズが主流となる。

インダストリアル・インターネット(米国)=製造業のサービス化

製品は売って終わりではなく、売って利用開始されて初めて、データ収集マシンとして働き始める。当初の製品の目的に加えて、常にユーザに近いところにある製品は、消費者の行動やニーズを把握する貴重な情報源となる。こうした情報を分析することで、顧客の課題を解決できる新たな価値を生み出すことができる。

この二つの目的は似て非なるものであるが、基盤としてはIoT(Internet of Things)、すなわちネットに繋がった機器を使う。ただし、インダストリー4.0は製造に必要な産業用ロボットがスマート化・ネットワーク化するのが特徴的なのに対し、インダストリアル・インターネットは売ったあとの製品がスマート化・ネットワーク化することを強調する。

また、似た言葉にセンサーネットワークというものがある。センサーネットワークと今風のIoTの違いは何かといえば、これは何とでも言えるが、以下のような定義はいかがだろうか。

センサーネットワーク+SMAC = IoT

SMACとは、Social, Mobile, Analytics, Cloudである。単にセンサーが繋がっただけでなく、SMACのどれか、あるいは複数が組み合わさったものが今風のIoTである。消費者寄りのサービスであればSocialやMobileが重要だろう。エンタープライズ向けであればAnalyticsとCloudが重要かもしれない。Analyticsは今なら人工知能技術も含むだろう。単にセンサーが繋がったものをIoTと呼んで良いか迷った時は、この定義を使ってみてはどうだろうか。

やや話がそれたが、インダストリー4.0、インダストリアル・インターネットの双方に課題もある。

インダストリー4.0的な世界を実現するには、いかに顧客のニーズを把握できるかが課題だろう。個人が顧客であれば、SNSなどで顧客接点があれば有利だ。やはりこれからはあらゆる点で顧客接点を持っていることが有利になるのかもしれない。しかし、課題は顧客は自分が欲しいものをわかるか?である。

スティーブ・ジョブズは顧客が欲しいと思うものを顧客よりも早く思いつくことを重視し、市場調査を信頼しなかったと言われる。顧客が本当に欲しいと思うものは、人間が顧客をつぶさに観察していても難しいことだ。ソーシャルメディアや検索履歴を分析していれば、そういう潜在的ニーズがわかるという人もいるかもしれない。しかし、得てして自分が思いもよらないものが製品として社会に出現し、それらを購入するということもまたよくあることである。そこにはもう少し深い社会トレンドや消費者への洞察が必要であるような気もする。

一方で、インダストリアル・インターネットも以前から言われてきた「製造業のサービス化」の一環とも言える。これはマイケル・クスマノ教授なども兼ねてから「Servitization」と読んだりしており、長年の懸案である。しかし、アフターサービスでお金が稼げるかは別問題である。当初の製品の付加価値として、他社に対する優位性をもたらす可能性があるが、データ分析の結果だけで、独立したビジネスとして成立するかはまだまだ検討の余地があるだろう。

そこには、情報の価値にまつわる古典的な課題がある。それは、情報の売買では、「中身を見ないとお金は払えない」し、「中身を見た後ではお金を払う理由がない」のである。そのようなわけで、単純に売った製品から集めたデータで顧客の課題を解決するといった単純なアイデアでは、マネタイズにはまだ距離があるのではないだろうか。そこからもう一段、独立したサービスとして成立するための工夫が必要だろう。

いずれにしても、IoTの検討は始まったばかりである。IoTがどのような深さで産業構造の変化をもたらすのか、今後も注視が必要だろう。

 

 

IoTは「データ入力の壁」の克服である

「IoTまるわかり」(三菱総合研究所)という本を読ませていただいた。IoTとはInternet of Thingsの略で、あらゆるモノ(Things)がインターネットで繋がるという意味である。顔文字ではない。

IoTは極めて幅広いキーワードで、色々な人がそれぞれの立場から語っているため、おそらく「これが正解」という解説をするのは極めて困難だろうと思う。その意味で、本書の最大の長所は「三菱総合研究所がIoTをどう捉えているか」を知ることができるということかもしれない。加えて、コンパクトにまとまっているので、どのようなことが議論されているか、その概略を掴むのにも良かった。

ここで書評をするつもりはないので、本書を読みながら私なりにIoTについて感じてきたことを備忘録として書いておこうと思う。

まず、私はコンピューティングの歴史の中で、IoTを「データ入力の壁」を超える一連の努力の一つと位置付けている。アルゴリズムは論理の積み重ねなので、人の創意工夫である意味無限に進化が可能である。最近の機会学習・人工知能もその一つだ。コンピュータの計算能力も、最近ムーアの法則にもやや陰りがあるとはいえ、いまだ進化は続けている。その中で、この数年で最も重要な局面を迎えているのが「データ入力の壁」である。

データさえあれば、計算能力とアルゴリズムでいろんなことができるはずだ。しかし現実社会の自然現象をデジタル化するには、大きな壁があった。それをまず超えたのは、検索SNS(ソーシャルネットワーク・サービス)である。

人が情報を探したり、コミュニケーションを取る際には話したり、手書きだったりしたものが、最近はその多くが検索エンジンやSNS上で行われるようになり、元からデジタルになった。これによって、アルゴリズムと計算能力の力で猛烈に分析ができるようになり、人の行動や好みまで予測ができるようになってきた。コンピューティングの可能性を一気に広げるには、いかに自然現象をデジタル化し、コンピュータで扱えるようにするかが最重要課題となったのである。

そのようなわけで、自然現象のデジタル化は人工知能研究の一大分野でもある。音声認識とコンシェルジュ機能は音声というアナログ情報をデジタル化し、コード化できる技術が基礎となっている。Googleなどが開発している自動運転車も、人間が見ているのと同じように、自然環境をカメラやレーダーで認識し、コード化し、分析できる画像・動画認識に基づいている。

そして、いっそ全部元からデジタルにしてしまえば、コンピューティング能力をさらに活かすことができるというのがIoTである。だから、IoTも人工知能も目指すところは同じであり、「元からデジタルの情報を増やすことで、コンピューティング能力を最大限活用すること」である。

ところで、本書には冒頭でIoTが実現した世界に関するストーリがいくつか示されている。言うまでもなく実現するのはこれらの構想のすべてではなく、ビジネスモデルとして成り立ったものだけだろう。特にIoTでは、以下の要素を満たすビジネスモデルが重要であるように思われる。

  • スケール:規模の広がりが見込めるか
  • ニーズ:お金を払ってでも欲しいか
  • 精度:現実のニーズを満たすほどセンサーあるいは分析の精度が高いか

こうした要件を満たすビジネスモデルのみが現実には普及していくだろう。そういう意味では、重要なのは「IoT社会の実現」というより、IoT的な要素を持つ分野、企業、サービスなどの一点突破的な展開かもしれない。