ブロックチェーン活用の未来

先日出版した書籍「Blockchain Economics: Implications of Distributed Ledgers: Markets, Communications Networks, and Algorithmic Reality」には、私の論文「Does Blockchain “Decentralize” Everything?: An Insight from Organizational Economics」(ブロックチェーンはすべてを分散化するか?組織経済学からの洞察)が掲載されている。

自律分散型組織(DAO)というキーワードに代表されるように、ブロックチェーンを活用して、あらゆる業務に対して非中央集権的なサービスを作る動きがあるが、どこまで拡張可能かを組織経済学のフレームワークで分析したものだ。

結論を簡単に言えば、自律分散化するためには業務を完全にコーディングする必要があるが、現実には全ての業務を形式化してコーディングするのは難しい。コーディングされない部分は誰かが任意の意思決定を行う必要があり、そこには中央集権的組織構造が残ることになるというものだ。

ビットコインは、トークンの発行と決済という機能に範囲を限定したことで、ほぼすべての業務をコーディングすることができたが、それでもユーザーインタフェースや交換業務などは中央集権的な取引所に依存している。

業務を丸ごとすべてブロックチェーンで置き換えるよりも、トークンの管理や証跡の記録など、一部の機能に特化して使うことで、サービスの信頼性を高めていくことに使うというのが現実的だろう。

ところで、中国ではアリペイやWeChat Payが急速に普及しており、日本でもLINE、メルカリ、Paypay、みずほ銀行など、モバイルペイメントの展開が急ピッチで進んでいる。先日もPaypayのキャンペーンが注目を集めたばかりだ。

これらのモバイルペイメントサービスの多くは、各企業が運営する中央集権化されたサービスである。こうした中央集権化されたペイメントがユーザーに急速に支持され、普及しつつある。「自律分散的」であることが、ユーザーにとって訴求するものがあるかというのもポイントである。

おそらく、ブロックチェーンは、インターネットにおけるSSLのように、「インターネットでできること」を拡張するプロトコルのようなものになるだろう。ネット上で価値を交換したり、証跡を残すことのできるアドオンのようなものである。

もちろん、そのコアの部分にはインフラに近いサービスを提供する可能性はある。例えばビットコインのブロックチェーンは、カラードコインの形で情報証明インフラの機能を果たしている。

ブロックチェーンの活用は、誰もが使えるインフラに近い部分を提供するか、「システムの一部に必要に応じてブロックチェーンを活用したサービス」かのどちらかで考える必要があるのではないだろうか。

Blockchain Economics出版のお知らせ

書籍「Blockchain: Blueprint for a New Economy」で知られるMelanie Swan氏らとともに、「Blockchain Economics: Implications of Distributed Ledgers: Markets, Communications Networks, and Algorithmic Reality」という書籍を発刊させていただきました。

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私は編者の一人として書籍全体の編集に関わったほか、私自身の章も採録されています。

本書籍は査読付き論文を採録した学術図書であり、ブロックチェーンの持つ意味合いや影響について専門的に踏み込んだ内容の書籍となっています。

私自身の論文は第2章となっています。

Chapter 2: Does Blockchain “Decentralize” Everything?: An Insight from Organizational Economics(ブロックチェーンはすべてを分散化できるか?組織経済学からの洞察)

ブロックチェーンがどこまで組織を分散化できるのか、組織経済学の観点から論じたものとなっています。

要旨は以下の通りです。

There have been increasing expectations that blockchain technology would decentralize organizations in a wider range of services such as sharing economy, public ledgers, and electricity. On the other hand, decentralization is facing difficult challenges such as seen in the split of Bitcoin and the growing expectation on permissioned ledgers. This chapter aims to shed light on the economic mechanisms behind blockchain-enabled decentralization from the viewpoint of organizational economics. An analysis is provided with an in-depth case study of the Bitcoin ecosystem. Results reveal that blockchain technology decentralizes organizations by reducing uncertainty through codifying tasks and also by reducing the risk of opportunism through the governance by distributed participants, while those decentralization applies only to a fraction of the whole ecosystem. Additionally, decentralization sacrifices workers’ incentives such as income risk aversion and efficient decision-making. Therefore, the extent of blockchain-enabled decentralization is determined by the trade-offs between efficiency through tasks marketization and workers’ incentives.

よろしければお手に取ってご覧ください。

 

地域活性化とブロックチェーン

昨年、会津若松市で行われたデジタル通貨「萌貨」の概要と結果が公開されました。

英語ですが、どうぞご覧ください。

Blockchain-Based Digital Currencies for Community Building

要旨

ブロックチェーン技術は、近年、組織や経済全体に対して幅広く影響を与える技術として注目を集めている。ブロックチェーン技術、あるいは分散型台帳技術(DLT)は、世界に分散する不特定多数の参加者により発行・維持されるビットコインや類似のデジタル通貨を実現するためのプラットフォーム技術として誕生した。ビットコインなど、民間分野におけるデジタル通貨が普及するにつれ、同様のデジタル通貨を、幅広い様々な文脈において活用することへの関心が高まっている。例えば、英国、スウェーデン、カンボジア、カナダなどの中央銀行においては、それぞれ独自のデジタル通貨を検討しているとされている。また、自動車や太陽光パネルなどを含め、IoTにおける決済へのデジタル通貨の試みもみられる。いくつかのスタートアップ企業では、資金調達手段としてデジタル通貨を活用している。多様な文脈と目的に対してデジタル通貨を発行することは、経済の機能に影響を与えることが考えられる。本稿では、地域活性化のためのデジタル通貨に関する概念的枠組みと技術実装について解説し、新規のマネーである「萌貨」の実証実験の結果を報告する。

Abstract

Blockchain has recently become the center of attention as a key technological tool to impact a broad range of organizations and affect the overall economy. Blockchain technology, also referred to as Distributed Ledger Technology (DLT), was initially created as the platform technology that enables Bitcoin that are issued and maintained by anonymous participants around the world. Reacting to the wider acceptance of digital currencies in the private sector, such as Bitcoin, there is a growing interest in the wider use of similar digital currencies in a different context. For example, central banks in countries such as the United Kingdom, Sweden, Cambodia, and Canada are reported to be considering their own digital currencies. There is also a trial to use digital currencies to enable payments for the Internet-of-Things, such as automobiles and solar cells. Some start-up companies use digital currencies to collect investments. Issuance of digital currencies for a variety of contexts and purposes could change how the economy works. This paper provides a conceptual framework and technological implementation of a digital currency for community vitalization and reports the results of a Proof-of-Concept using a new local currency, “Moeka.”

 

 

ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸

経済産業省から、「ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸ver1.0」が公開されました。私はこの検討を行った委員会で、委員長を務めさせて頂きました。

「ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸ver1.0」を策定しました(経済産業省)

どうぞご活用ください。

ブロックチェーンにおける組織経済的問題

昨日、東京大学で開催されたDr. Catherine Mulliganの講演会で、コメンテーターを務めさせて頂いた。その時の自分の主なコメントを備忘録として記録しておきたい。

分散型社会におけるイノベーションの報酬

もしブロックチェーンが、人が介在しないサービスを可能にするとしても、誰かがイノベーションのリーダーシップを取り、労力をかけてサービスを開発しなければならない。その対価をどのようにして得るか。

仲介者の不在はより激しい競争をもたらすか?

企業が従業員と取引先の仲介者であると仮定し、ブロックチェーンがそうした企業の機能を置き換えると仮定する。しかし、伝統的企業(階層的組織)においては、従業員が権威者(上司)の指示に従うことによって一定の収入を得るという性質を持つ。もしそうした権威を伴う仲介者が不在となれば、個人間のより競争が激しい社会になる可能性は無いか?

信用の仲介者は、付随する様々な責任もとってくれるのではないか?

取引においては情報の正確性や耐改ざん性だけでなく、取引相手の機会主義的な行動や、なりすましなど、様々なリスクが内在する。仲介者として信用を提供している主体は、こうした様々なリスクもカバーし、一定の責任を取ってくれる機能を果たしているのではないか?(Trust provider = Responsibility takerの問題)

上記を含め、私が以前から研究分野としてきた組織経済学の観点から興味深い論点はたくさんある。

ブロックチェーンに関する講演

最近、立て続けにブロックチェーンに関する講演を行いました。

3/11 「ブロックチェーンの概要と分散型社会」Global Design Hackathon:「Blockchain Hackathon: Pioneering the Future by the Hyperledger Iroha(ブロックチェーン・ハッカソン~irohaで作る新たな未来~)」、http://www.gcl.i.u-tokyo.ac.jp/events/20170311-0312-global-design-hackathon/.

  • Hyperledger Irohaを使った2日間のハッカソン。初日にブロックチェーンの概要と様々なユースケースについて話題提供させて頂きました。活発な質問を頂きました。その後のハッカソンの成果が楽しみです。

3/12 「未成熟な技術の『弱点』を理解すること」WIRED BUSINESS BOOTCAMP, BLOCKCHAIN SUNDAY ブロックチェーンでビジネスを革新せよ. http://wired.jp/business-bootcamp/2017/blockchain/. 講演およびモデレータ(ブロックチェーン革命、実現への課題 講師:三島一祥、水野祐、高木聡一郎).

  • WIREDさんのイベントで講演とモデレータをさせて頂きました。素晴らしいパネリスト陣で私も大変勉強になりました。

3/13 「ブロックチェーン技術の概要と分散型社会の可能性 ~会計・簿記システム革新との関連を中心に~」ブロックチェーン技術と分散型組織, 社会・経済システム学会 関東部会研究会. https://sites.google.com/view/20170313jasess/.

  • ブロックチェーンが会計・簿記システムの変革にどのように貢献できるか、議論を行いました。

講演をさせて頂くことで、様々な出会いがあり、私自身も勉強になっています。

ブロックチェーンで創造性を鍛えよう

国際大学GLOCOMで発行しているオピニオンペーパーに以下を執筆しました。

「ブロックチェーンで創造性を鍛えよう」GLOCOM OPINION PAPER_No.12_17-003

(案内文より)
「今回のOPINION PAPER No.12では、ブロックチェーン技術の応用について、既存の枠組みに捉われない発想で検討することで、現代のビジネスパーソンに必要な創造性を鍛えることができるのではないかと提案しています。どうぞご一読ください。」