Ethereumの実応用:Arcade Cityによるドライバーの企業所有

ブロックチェーンの発展形であるEthereum(イーサリウム)は、通貨の代わりにプログラムを載せ、稼働させることができるブロックチェーンの枠組みである。Ethereum自体はまだ2015年7月に運用を開始したばかりであり、実際の活用はまだまだこれからだと思われていたが、Arcade Cityという企業がイーサリウムを活用した興味深いビジネスを開始した。

Arcade Cityは、Uberのようなライドシェアリングのサービスを提供する。プレスリリースによると、ドライバーがこの会社の所有者になること、そして、より多くの自律性を手に入れることに新規性があるようだ。

例えば、ドライバーが料金を自由に設定することができるほか、配達や乗客のサポートなど付加サービスも自由に行うことができる。

そして、Ethereumの仕組みを使って、ドライバー自身がこの会社の所有者になるということである。

「Arcade City has begun integrating its service with blockchain technology using a decentralized application platform called Ethereum, similar to Bitcoin but more suitable for governing peer-to-peer interactions. Arcade City will use Ethereum to issue ‘crypto-equity’ to drivers, allowing them to own up to 100% of the company by 2020.」(プレスリリースより)

具体的な仕組みは明らかになっていないが、Ethereumで発行するトークンが株(エクイティ)となるのだろう。これは、よく議論されているDAO(Distributed Autonomous Organization)の一例ともいえる。

但し、これは株の持ち分の話だけであるので、これ自体は別にEthereumでなくてもできるかもしれない。

問題は、各ドライバーが完全独立自営業者として働くよりも、Arcade Cityの一員として働いた方がより多くの付加価値を生み出すことができるかどうかである。そのためには、Arcade Cityならではの何らかの統一的な付加価値が必要だろう。その企業としての付加価値を高めるために、ドライバーが働くことで、自分のエクイティの持ち分が増える、あるいはエクイティの価値が上がるような仕組みが内在化されていれば、新しい組織形態として非常に興味深いことになる。

この辺については、仕組みについて続報が待たれるところである。

 

電力供給とブロックチェーン

ドイツにおいて、電気自動車の充電スタンドで充電する際に、ブロックチェーンを活用する試みがあるとのこと。

Why a German Power Company is Using Ethereum to Test Blockchain Car Charging

ブロックチェーンの応用は様々な場面で試みられているが、「本当にブロックチェーンで実現するメリットがあるのか?」「何が可能になるのか?」「どのような問題が解決されるのか?」という視点が重要であろう。

今回の記事によれば、ブロックチェーン、特にスマートコントラクトを使うことによって、ユーザーが充電器と直接取引を行うことによって、おそらくは事業者とのわずらわしい契約を行う必要が無くなるということのようである。

通貨としての使い方であれば、払ったお金の使い道を限定するといった使い方に可能性があるが、もしブロックチェーンで「電気の出元と用途を制御する」ことができれば、エネルギー問題の議論にもインパクトがあるかもしれない。

 

ブロックチェーンと電子政府

英国政府の科学庁(Office of Science)は、「Distributed Ledger Technology: beyond block chain」(PDF)というドキュメントを発表した。これは、ブロックチェーン技術を政府業務や公的な目的にどのように使えるか、その可能性を検討した結果をまとめたものだ。

大臣2人が前文を執筆したこのドキュメントは、ブロックチェーン技術が強力で革新的なものであり、公共と民間双方のサービスを変容させて生産性を向上させるものだとする。そして、公共サービスをよりパーソナルで、タイムリー、効率的なものにすることができるとしている。

しかし、政府は具体的にどのようにブロックチェーンを活用できると考えているのだろうか?

本レポートでは、ブロックチェーンの持つ3つの側面に着目している。

  1. 仮想通貨アプリケーション
  2. スマートコントラクトをはじめとする契約のイノベーション
  3. ブロックチェーン関連ビジネスの育成による経済成長

そして、これらを活用した以下の5つのユースケースを示しているので、それらを見ていきたい。

ケース1:重要インフラの防御

ブロックチェーン技術により、ソフトウェアの改ざんを即時に検知する仕組みを作り、重要インフラのソフトウェア改変による影響を防ぐ。

ケース2:社会保障支出の運用改善

社会保障支出に際して、仮想通貨等を利用することで受給者へ直接受け渡すことを可能にして、中間的な取引コストを削減する。また、ブロックチェーン技術で受給者のなりすまし等を防ぐことで、不正受給を防ぐ。

ケース3:国際援助の運用改善

仮想通貨によって国際送金にかかる為替コストを削減するとともに、スマートコントラクトを活用して、被援助者が現地政府の関与なしに自ら契約履行できる仕組みを構築する。また、中間組織を介在せずに、直接的に支援を必要とする人に支援物を届けることを可能にするとともに、本来の目的に沿った用途以外では使えないような仕組みを組み込む。

ケース4:取引コストの削減とイノベーションの推進

知的財産、特許、遺言、公正証書、ヘルスデータ、年金等の登録にブロックチェーン技術を活用することで、中小企業にとっての取引コストを削減する。また、マイクロペイメントの考え方を活用して新たな公的業務とビジネスのやり方を開発する。市民は自分のパーソナルデータがどのように使われているのか管理できるようになる。

ケース5:付加価値税の徴税

スマートコントラクト等を活用して、徴税漏れを防止する。
以上を概観するだけでも、英国政府がブロックチェーンの活用可能性をかなり幅広く見ていることがわかる。その一方で、技術開発・応用はまだ始まったばかりで、これから幅広いステークホルダーと連携して進めて行く必要があるとも述べており、そのための8つの提言をしているところである。

ところで、ブロックチェーンの活用可能性について、英国政府は先に述べた3つの観点を挙げていたが、私としては以下の3つの観点に整理してみたい。

取引コストの削減
資産の登録や移転処理に関する取引コストの低下によって官民の負担を軽減し、経済成長を後押しする。

改ざん検知力の向上
ブロックチェーンの考え方を用いて、情報資産の改変を防止したり、早期に検知する。

情報資産の流通コントロール力の向上
情報資産の移転がどこで、どのように使われたかを管理する。これによって、個人も自分の情報のコントロール権が向上するだけでなく、情報資産の利用に応じた課金なども可能になる。

まだまだブロックチェーンの応用については議論が緒に就いたばかりで、過大な期待が先行している可能性もある。今後より詳細な検討が行われていくだろう。

ブロックチェーンの応用開始:NasdaqのLinqシステム

以前、ブロックチェーン技術が仮想通貨以外の場面でも使えるようになりそうだという話を書いたが、これが早速実現することなった。アメリカの新興企業向け株式取引市場を運営するNasdaqが、ブロックチェーン技術を用いて株取引を管理するLinqというシステムを実用化した。

Linqは未公開株の取引に使われるもので、株式の所有権が誰から誰に移管されたかを管理するものだ。ビットコインでは通貨の取引を管理したのに対して、ここでは有価証券の取引を管理することになる。その特徴はNasdaqのリリースによると、「証券の発行と売買に関する包括的で、過去の取引を含めた記録を提供し、第三者による検証可能性、発行のガバナンス、所有権移転の管理能力を向上させる」としている。

ただ、現時点ではその技術的な詳細は確認できていない。上記のリリースに見られる検証可能性やガバナンスの向上というのは、ブロックチェーンのP2P、すなわち分散型で誰でも検証可能であるという特性よるものだろう。

一方で、ブロックチェーンは「Nonce」と呼ばれる数字を見つける計算能力に依存しており、通常は10分かかるとされる。したがって通常ビットコインの送金も確定までに10分かかると言われているが、証券取引のような速度が重要な場面で、どのように時間的制約を解決しているかは興味深いところである。

以前、最近のITサービスの本質が「リソースの最適配分」にあり、FoE(Financialization of Everything)ということもあるのかもしれないと書いた。もしNasdaqの試みが成功するならば、ブロックチェーン技術が広範囲に使えるということにもなるのかもしれない。