自治体は企業を誘致するためにどの程度の優遇措置をするべきか?

インターネット通販大手のAmazonが、第二本社をニューヨーク郊外に作るという計画が撤回された。これは、Amazonを誘致するために、地元自治体が30億ドル(約3,300億円)もの免税等インセンティブを与えるとの計画に、反発が強まったためである。

しかし、過去にもこれと同様に、自治体が企業や民間施設を誘致するために巨額の援助を行うケースはある。ニューヨークタイムズが取り上げているのはハドソンヤードの事例だ。ニューヨークのウエストサイドで再開発されたエリアで、免税や地下鉄の延伸などのために60億ドル(約6,600億円)分の優遇が行われたとされる。

自治体は企業を誘致するために、企業に対してどの程度の優遇措置をするべきか?というのは難しい問題だ。

行うべきとする立場からは、巨大企業の誘致によって雇用が生み出され、地域が発展し、住民にとってもプラスになるとする。現代はグローバルなメガシティ間の競争が激しく、Amazonのように高度なITエンジニアが多数転入してくる案件の獲得は、都市の発展から重要な意味を持つ。

その一方で、行うべきではないとする立場からは、Amazonのように、ただでさえ成功している企業が、特別な優遇措置を得てニューヨークの一等地にオフィスを構えることができるなら、さらに企業間の格差は拡大し、不公平であるとする。また、開発の結果、家賃が高騰してその地域にいた人々が住めなくなる「ジェントリフィケーション」の問題もある。

イチかゼロかとは言い切れない以上、投資対効果や手法の公平性といったHowの問題になるだろう。例えば、企業誘致への巨額の投資を行う際には以下のような点を考慮する必要がある。

  • 客観的な立場からの費用対効果の推計
  • 透明性と合意形成の確保
  • 援助が長期的な競争環境に与える影響のアセスメント

ところで、Amazonのような最先端の企業を誘致することの波及効果があることは理解できるが、現代は必ずしも大企業を誘致するだけが産業振興ではない。プラットフォームの普及などにより、フリーランスで働く人も増えており、米国では5,730万人に達している 。これは総労働人口における割合で35.8%を占めており、働いているミレニアム世代の47%にも登る。

また、Amazonのような企業が生まれたのは、ジェフ・ベゾスのような起業家がビジョンをもってビジネスを立ち上げたからであり、そうした個人やスタートアップのエネルギーをいかに都市の中で育む環境を作るかのほうが重要ではないだろうか。

Amazonのような成功した企業を誘致するのでなく、Amazonのような企業が次々と生まれる都市を目指すのも、都市戦略としては重要ではないだろうか。

 

ブロックチェーンと企業のかたち

日立製作所のExecutive Foresight Onlineに、インタビュー記事を掲載して頂きました。このサイトでは、技術と社会、経営など非常に幅広いテーマで記事が掲載されています。

私は、「新たな企業経営のかたちを探る【ブロックチェーン×経営】 ブロックチェーンが社会を変える」と題して、3回シリーズで掲載して頂きました。

第1回:価値の交換の新しいインフラ

第2回:仮想通貨を超えるさまざまな活用法

第3回:貨幣、企業、組織はどう変わる?

よろしければご覧ください。

 

 

イノベーターの小規模化を考える② 取引コスト理論から

なぜイノベーター、あるいは広く経済活動の担い手として小規模な事業者や個人が存在感を持ってきたのかを考察する上では、「そもそも、なぜ組織が必要なのか?」からスタートするのが役に立つだろう。

なぜ組織が必要なのか、という問題は、ロナルド・コースやオリバー・ウィリアムソンなどが発展させてきた「取引コスト理論」で議論されてきた。取引コストというのは、大雑把に言えば市場で取引する際の直接原価以外の様々なコストである。もし取引コストが全然ないのであれば、人を雇うより必要な業務は全て委託することで必要な業務を全て行うことができ、組織の出番は無いというわけである。取引コストという概念で、組織と市場のどちらでやるのが有利かを考える分野で、組織の境界、あるいは”Make or Buy Decision”の学問であもる。

そこで、まず取引コストに立脚した検討として、オリバー・ウィリアムソンの代表的な著作である「市場と企業組織」をもとに考えてみたい。

まず、同書における組織の必要性を筆者なりに整理すると、取引の効率性と、意思決定の効率性の二つの問題がある。

取引の効率性の問題

まず、取引の効率性から考えてみるが、市場における取引が上手くいかない、すなわち組織が必要なのは以下の二つのケースがある。

  • ケース1:事前に全ての取引を定義できない
  • ケース2:競争原理が働かない

ケース1は、専門的には限定合理性と不確実性がある場合と言われる。人間の頭脳は完璧ではない上に、将来何が起こるか不確実である状態である。そのような状況では、契約によって外部に委託する内容を完璧に記述することができない。だったら、社員として雇って状況に応じて適切な業務をしてもらった方がよいというわけである。

ケース2は機会主義と少数主体間取引関係がある場合と言われる。外部に委託したくても、一部の者しかその業務を遂行できない場合、その者が機会主義的な行動を取られてしまうと業務が成り立たなくなってしまう。それであれば、その者を雇ってしまって直接指揮監督した方が効率的だ、というわけだ。

上記二つのケースが当てはまるほど、階層的な組織が必要となる。逆の場合には、世の中が分散的・市場的になるのである。つまり、上記二つのケースが減れば、イノベーターが小規模化するということが考えられる。それでは、ITによって上記二つのケースが減った可能性があるだろうか?

ケース1については、実はITといえども限定合理性と不確実性を解消するのは難しいかもしれない。もちろん、Web上で必要なスペック等について詳細に記載することはできるかもしれないが、それを全て読み、理解するのも大変である(限定合理性)。むしろ、ITは不確実性を前提として、業務を細切れにすることで、不確実性の問題を減らしているのではないだろうか。クラウドソーシングなど、以前述べた「リソースの最適配分」がそれである。

例えば、タクシーの場合客がいつどのくらい来るかを完璧に予測することは不可能である。だから、例えばドライバーと一年契約を結び、客を何人乗せること、という条件で契約を結ぶのは難しいかもしれない。従って、一般的にはドライバーを雇用して一定の給料を払いつつ、変動する需要に対応する。しかし、Uberのドライバーが、自分の空いた時間をスポット的に提供するのであれば、まさに現時点での需給がマッチしさえすればよく、長期的な不確実性は問題にならなくなる。一方で、Uberのドライバーがそれ以外に職がなく、実質的に専属ということになれば、不確実性の問題が出てくるかもしれない。

一方のケース2については、電子的な調達やクラウドソーシングなど、少数者取引にならないような仕掛けも増えている。あるいは、ユーザー(購買者)によるレーティングなどの方法で、提供側が機会主義的な行動をとらないようなインセンティブ設計の仕組みも取れるようになってきた。

このように、ITは業務を細切れにすることで不確実性の問題をクリアしつつ、また提供側のインセンティブを上手く設計することで、経済主体の小規模化を促進してきたのかもしれない。

意思決定の効率性の問題

次に、意思決定の効率性について考える。同書が紹介するアローの議論によると、これは限定合理性と関係がある。つまり、個人が全ての情報に通じているわけではないから、各個人の情報を持ち寄って共同決定した方がよい。しかし情報の伝達にはコストがかかるので、ある中心地に集約した方が効率がよい。また同様に意思決定も集約して行った方が効率的であるというのである。さらにウィリアムソンは、情報収集能力と意思決定能力は個人によって違いがあるので、特に得意な者に任せることで効率性が上がる可能性があるとする。ここに、フラットな組織ではなく階層関係を持つ組織の必要性が生まれるというのである。

ここで問題になっているのは、情報の偏在(被対称性)と、情報処理能力である。いずれもITが得意とするものだ。

インターネットの普及で情報の偏在の度合いが下がってくれば、たくさんの人数をかけて情報収集をする必要は減るだろう。「三人よれば文殊の知恵」のご利益も少なくなってくるということだろうか。情報処理能力や意思決定については、人工知能などに期待する向きもあるかもしれないが、現時点ではITによるところというより、教育の普及によるところもあるかもしれない。

これまで見てきたように、組織が必要な理由は、取引の効率性に関する問題と、意思決定の効率性の問題がある。いずれもITによって問題が小さくなっている部分がある。小規模な組織や個人であっても、経済主体、あるいはイノベーターとして活躍できる土壌は、こうしたITの発展によるところがあるのである。