書籍『デフレーミング戦略』予約開始

私の新著『デフレーミング戦略 アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則』が、Amazonにて予約開始となっております。7/16発売予定です。

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プラットフォーム、キャッシュレス、ニューリテール、信用スコア、ブロックチェーンなど最新のテクノロジーとビジネス動向を踏まえ、今後のビジネスモデルから組織の形、働き方までを幅広く論じています。

その核となるキーワードとして『デフレーミング』(フレーム:枠が崩壊するという意味の造語を提示しました。

どうぞお手に取ってご覧ください。

内容紹介(Amazonより)

本書の目的は、「デフレーミング」という概念でデジタル化がビジネスや経済に与える本質的な影響を明らかにすることです。

「デフレーミング」とは、枠(フレーム)が崩壊するという意味の造語。デジタル技術が社会経済に与える影響を理解するための共通的なフレームワークとして、ビジネスモデル、企業のビジネス戦略から、私たちの働き方、キャリア設計、学び方にいたるまで、あらゆる変化をとらえる鍵となります。

デフレーミング戦略とは、伝統的な製品、サービス、組織などの「枠」を越えて、それらの内部要素をデジタル技術で組み直すことで、ユーザーにより最適化されたサービスを提供できるようにすること。従来の「サービス」や「組織」といった「枠」がなくなる時代に、万人に受けるパッケージ化されたものから、ユーザーに個別最適化されたものに転換させ、企業という枠で仕事を受発注するのではなく、個人のスキルやリソースを個別に特定して取引するビジネスの考え方です。

本書では、その様々な現象や事例を通じて、今後のビジネスやサービスの変化を考察するとともに、近年クローズアップされている「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)についても、それが社会に与える深い影響を、明らかにします。

【本書に出てくるトピック、キーワード】
・デフレーミングというフレームワーク
・デジタルトランスフォーメーション
・GAFAの今後の展開
・中国 アリババ、テンセント、Line,WeChat、インスタグラム、美団、ZOZO
・個人の信用経済と決済、電子マネー
・プライバシー問題
など

 

自動運転車の経済効果

自動運転車、すなわち人が関与することなく自律的に走行できる車が話題である。Googleの自動運転車が一時期話題だったが、最近ではトヨタをはじめ主だった自動車メーカーはほとんど何らかの形で取り組んでいると思われる。

この自動運転に関係して興味深い記事がNew York Timesに出ていた。カーナビの話である。(記事:Navigation Systems Still Show the Way, but Also Make the Route Safer

ここ数年、スマートフォンの普及と、安価なナビアプリに押され、カーナビは苦戦を強いられていたが、自動運転の盛り上がりで、再びカーナビにチャンスが巡ってきたというのである。自動車のレーダーやカメラで把握できる範囲は限られているが、3次元で精度の高い地図は自動運転に必須であり、こうした地図はカーナビの得意分野であるという。そして、カーナビは車にビルトインされるという特性を生かして、スマートフォンよりも車の操作により深く関与することができる。

同記事は、アウディ、BMW、ダイムラー等のコンソーシアムが28億ドルでノキアのHEREと呼ばれる地図ビジネスを買収したのもこうしたカーナビ復権の一環を示しているとする。スマートフォンの普及で窮地に立ったかと思われたカーナビが、自動運転との連携で復権する可能性が見えているのは興味深い状況である。

ところで、同記事にはもう一つ面白い論点があった。

それは、運転アシスト機能に、消費者がお金を払うかは別問題というものである。

同記事は、自動車メーカーが先進的なドライバー補助機能が標準装備になると考えているとも伝えている。確かに、最近でいえばブレーキアシスト機能や白線をまたぐ際の警告など安全支援機能が増えているが、だからと言ってそれに高いお金を払うか問えば別問題だというのである。

この調子でいけば、自動運転機能の付いた車に対して、ユーザーがどれだけ高い値段を払ってくれるかは微妙だということになるかもしれない。結局のところ、特に普及車に対して消費者が払える金額は決まっているため、自動運転技術は付加価値ではあるものの、追加の利益がもたらされるというよりも、対応していないメーカーに対する競争優位性という形で成果が出るものかもしれない。

もっとも、イノベーションに対して逆にユーザーが高いお金を払っているものの例に、電動アシスト付き自転車というものがある。これは明らかに普通の自転車より高額だが、これは電動アシスト機能自体にコスト(限界コスト)がかかっていることと、元の価格が安いために、ユーザーがプラスアルファで払ってもよいと思う余地があるためだろう

そのようなわけで、自動運転車は自動車メーカー間の相対的な競争力に変化をもたらす可能性があるものの、付加的な収入につながるかはまだ注視が必要であろう。むしろ、自動運転車が言われているような効果を実現できれば、外部効果の方が重要かもしれない。すなわち、安全性や環境への影響、輸送・物流などへの影響である。そういう意味では、自動運転車の開発で影響を受けるのは、実は自動車業界以外になるのかもしれない。

IoTは企業戦略の問題である

ここ何回かIoTについて書いているが、マイケル・ポーターらが2014年11月に発表した「How Smart, Connected Products Are Transforming Competition」(Porter and Heppelmann)は実に重要な論説である。というのも、この論文は、IoTが企業の競争環境の変化をもたらすものであって、それに個々の企業がどう対応するかという企業戦略の問題であるということを強調しているからだ。

IoTについてはアメリカとドイツの違いなど、国ごとの戦略として紹介されることが多い。また、それに伴って日本でも国としてどうするかという観点で語られることもある。しかし、ポーターらの論文によれば、IoTは「ITによる競争環境の変化の第三の波」である。第一の波はコンピュータによる自動化、第二の波はインターネットの登場であり、第三の波を以下のように説明している。

「ITがプロダクト自体の一部分となる。製品に埋め込まれたセンサー、プロセッサー、ソフトウェア、通信機能(要するにプロダクトの中に組み込まれたコンピューターである)、それに加えてプロダクトのデータが貯蔵され、分析されるクラウド環境が、製品の機能とパフォーマンスを劇的に改善する。この改善は、製品利用に関する膨大な新しいデータにより可能になる。」(筆者訳、一部省略)

つまり、プロダクト(ここではハードウェア製品全般を指している)の中に極小のネットワーク化されたコンピュータが埋め込まれることが当たり前となる世界では、プロダクトに関わる企業の競争環境は激変するということである。

ポーター論文では「Smart, connected products」(スマートで接続された製品)という言葉を多用する。IoTという言葉では「その現象や影響を理解する上であまり有益ではない」としている。確かに、Internet of Thingsでは何が重要な要素なのか、何に影響を与える現象なのかが伝わりにくいため、Smart, connected productsを使っているのだろう。

ポーターはこの「Smart, connected products」が5つの競争要素すべてに影響を及ぼすとする。それは、新規参入、サプライヤーの交渉力、バイヤーの交渉力、代替品の脅威、そして他社との競争関係である。それは、必ずしもプラスの効果ばかりではない。企業によってはマーケットが広がったり、他社に対する競争優位性の確保することができる。一方で、別の企業では新規参入による脅威にさらされたり、先行する他社に市場を奪われるということもあるという。

つまり、IoTは企業の競争環境の変化をもたらすものであって、IoTの市場規模がいくらになるかという話にとどまるものではないということでもある(もちろん市場規模や経済効果の算出は不可能ではないだろう)。第一の波、第二の波に沿って言えば、コンピュータの発明やインターネットの普及は競争環境に大きな影響を及ぼしたが、それらの市場規模がいくらか、というのは物事をやや単純化しすぎているように感じられるのと同じことだろう。IoTにはプラスの効果とマイナスの効果があり、どのような影響があるかは企業によって大きく違う可能性があるということかもしれない。

ポーターらはこうした環境変化に取り組む企業が考えるべき10の論点を挙げている。その中には、「オープン化戦略をとるべきか、クローズド戦略をとるべきか」や「どのようなデータを扱うべきか」、「どのようにデータへのアクセス権を管理すべきか」などが含まれる。こうした選択肢への決定は、企業が個々に置かれている環境や戦略に依存するものであるということである。

第一、第二の波で見られたように、コンピュータやインターネットの普及に政府が果たした役割は、研究開発や普及の点で大きなものがあり、同様にIoTについて政府が果たせる役割もあるだろう。しかし、ポーターの論説に立脚すれば、IoTにどう取り組むかは、第一義的には各企業が置かれた状況や戦略によって決まる企業戦略の問題でもある。企業がインターネットの普及・高度化にどう向き合うかと同様に、IoTについても各企業のスタンスが問われていると言えるのかもしれない。