イノベーションをめぐる構造変化

「事業構想」さんに、インタビュー記事を掲載して頂きました。

誰がイノベーションに必要な情報を持つのか 「エッジ」に宿る力

ここで言おうとしているのは、情報の力によって、ヒエラルキーの合理性が失われつつある部分があるということです。

うまくまとめていただいているので、よろしければご覧ください。

 

オープンデータの経済効果に関する研究

東京大学の田中秀幸教授と私の共著による以下の論文が、財務省財務政策総合研究所より公刊されました。

田中秀幸、高木聡一郎(2015)「インフラとしてのオープンデータ 政府・自治体保有データのオープン化が日本経済に及ぼす影響」『フィナンシャル・レビュー』平成 27 年第4号(通巻第 124 号)2015 年 10 月 、財務省財務総合政策研究所.

論文はどなたでもこちらからダウンロード可能です。

今回の論文は色々な工夫がされていますが、私なりにポイントをまとめると以下の点に集約されます。

  • 経済効果は想定により1586億円から7010億円(年間)だが、これは市場規模ではなくGDP押し上げ効果の純増を推計している点で新しい
  • 推計にあたり、マクロ経済に「データベース資産」という概念を導入し、公的部門・民間部門におけるデータベース資産の推計を行った。
  • 財務省・財務政策総合研究所の公式の論文誌で発表された

これまで、欧米を中心にオープンデータの経済効果については様々な推計が行われておりましたが、推計方法が必ずしもトレースできなかったり、推計の範囲が曖昧といった問題がありました。そうした問題について、本論文は一定の回答を与えるものとなっています。

この分野において、日本発の研究成果は多くはありませんので、関係の方々には是非ご活用いただけますと幸いです。

課題解決型オープンデータ活用に向けて

アニス・ウッザマン氏のスタートアップ・バイブルという本を読んだことはあるだろうか。シリコンバレー流のベンチャー企業立ち上げについて手順を追って書かれた入門書であり、極めて簡潔かつ網羅的にかかれているので、興味のある方には是非読んでいただきたい。

ところで、本書に興味深い箇所があった。

ベンチャー企業の立ち上げにおいては、まず、どのような問題を解決しようとしているのかを明確にすることが重要であるとする。その後で、どのようにその問題を解決するのかに移るべきであるとする。この順番が逆では、ベンチャー企業はうまくいかないという。前者がWhatであるとすれば、後者はHowの議論であろう。

もう少し私なりに考えてみると、どのような問題を解決するのか、すなわちWhatを考える過程では、以下のような問いに思いを巡らすことになるだろう。

課題志向の考え方

  • 困っている人は誰か?
  • どのくらい困っているか?
  • それが解決されたら対価を払う人がいるか?
  • それが解決されたらどのようなインパクトがあるか?

言うまでもなく、ビジネスの立ち上げにおいて、より成功確率が高いのはウッザマン氏の言うように、課題からスタートする方法だろう。ただし、問題はオープンデータにおいては、データを見ることが、問題とその解決法を発想する上で役に立つ場合があるという点である。

オープンデータ施策の初期段階では、データが先か、活用法が先かという議論がある。利用者側からは、データが無ければ、どのような活用法があるかわからない。一方、提供側からは、どのような活用法があるかわからなければ、どのようなデータを出せばいいのかわからない、という問題がある。

どちらも一理ある意見であるが、オープンデータの利活用推進のためには、まずは一定のデータを出してみようとする考え方に基づき、取り組みが進みつつある。多くの政府や自治体でデータ公開が広まり、それらを活用したアプリケーションも増えつつある。

しかし、今後、エンドユーザに利便性の大きなサービスの創出に繋げていくためには、課題からスタートすることが必要ではないだろうか。

オープンデータ活用例で有名な農業保険サービスを提供するClimate Corporation(その後Monsantoが買収)は、サービス立ち上げ時に政府機関に情報公開請求を数多く行ったという(出典:Grin, Open Data Now)。

政府機関がデータを公開し、それを民間で利活用するという考え方や制度が一定の広がりを見せている現在、オープンデータが次のステップに進むためには、活用側が課題解決志向になる必要があるのではないだろうか。

そのためには、世の中にどのような課題があるか、それをどのように解決できるか、そしてそれをいかに持続可能にするかが問われてくる。それは、起業家精神(アントレプレナーシップ)にも通じるのではないだろうか。

オープンデータの限界費用と限界便益

政府・自治体がデータを公開し、民間で利活用する「オープンデータ」。(狭義のオープンデータで、Open Government Dataとも言う)

データを公開するかしないかの意思決定は、基本的にはデータを保有している政府・自治体側にあるが、限界費用と便益の関係からみると、自然状態ではなかなか難しいことが分かる。

というのも、データを公開するためには、たちまち様々なコスト(役所内の調整、ウェブサイトの準備、データの選定、加工など)がかかる一方、そこから得られる便益はすぐには立ち上がらないからだ。(下図参照)

無題

費用については、データを公開するとなった時点で庁内説明や公開手順の整理など、様々なコストが発生する。しかし、これらのコストは時間とともに手続きにも慣れ、追加のコストは低下する。

一方の便益については、少ないデータが公開されても、それだけで大きな価値を生み出すことは考えにくい。小さなデータであっても大多数の自治体から公開されたり、多くの分野をカバーするようになれば、利用する側も注目するようになるだろう。後者はショッピングモールのようなもので、多様なデータが公開されていれば、そこを訪問するメリットが増えるため、全体の価値が規模とともに増える可能性がある。

そのため、初期の段階ではコストが便益を大きく上回る。いかにコスト(赤線)を下方にシフトさせるか、あるいは便益(青線)を上方にシフトさせるかが重要になる。

コストの赤線を下方にシフトさせる方法としては、

  • 政府全体が方針として出すことで説得のコストを下げる
  • 手順・手続きの雛形を示す
  • 共通的なプラットフォームを用意する

などが考えられる。すでに政府等各方面からこのような取り組みが行われている。

一方、便益の青線を上方にシフトさせる方法としては、

  • 利活用側の体制を整備する
  • すぐにデータを組み込めるようなアプリケーションを増やす

などが考えられる。Code for Japanのような利活用側のコミュニティの興隆や、ゴミナシなどのアプリケーションは便益の青線を上方にシフトさせるものだ。

いずれにしても、ここでのポイントは、データ公開の判断を担っている自治体にとっては、単独・短期で見ればコストが便益を大きく上回っている状況にあることを理解しておくことだ。

このような状況の中で長期的な視野に立ってデータ公開に踏み切る自治体を応援するとともに、なかなか踏み切れない自治体に対しても、なんとかコストと便益の差を埋める方法がないか考えることが建設的なオープンデータ推進のあり方ではないだろうか。