Facebookの仮想通貨Libraの経済学的論点

Facebookが主導する仮想通貨Libraが発表された。Libraは27のパートナー企業とともに、Libra Associationによって管理・運営されるという。

これまで、ブロックチェーンを用いたビジネスモデルは多種多様なものが構想され、実証され、一部は実際に運用されてきた。ブロックチェーンの価値記録の特性を活かして企業が経済圏を作るというのは、活用方法としては王道であり、目新しいものではないが、27億人というFacebookのユーザー数を考えたとき、その規模の大きさは、これまでの取り組みに類を見ないものである。

システム的なおさらいをしておくと、今回提案されているLibraはLibra Associationの意思決定をつかさどるLibra Association Councilのメンバー企業、すなわち初期の27の立ち上げメンバー企業が、一台ずつノードを出し合うパーミッションドの構成で作られる(通常、この形態はコンソーシアムと呼ばれる)。パーミッションドは透明性やオープン性の点で課題も多く、ブロックチェーンの良さを引き出しているとは言えない面もあるが、その点はLibra側も十分認識しているらしく、ホワイトペーパーでは運用開始後5年以内にパーミッションレス(オープン)なブロックチェーンへの移行を目指すとしている。

その本気度は、スマートコントラクト用に新たなプログラミング言語「Move」を開発してまで進めていることからもわかる。ゆくゆくは、だれもがMoveで書いたコードをLibra Blockchain上で動かすことができるようになるという。マネーだけでなく、グローバルなロジック動作の基盤までをもインフラ的に提供することになれば、そのインパクトは大きいだろう。

Facebookメッセンジャーなどで、簡単にお金を人と人の間で送金できるようになれば、新しいお金の流れや経済活動を生み出すことも期待される。ホワイトペーパーが謳うように、Financial Inclusionにも貢献することもあるかもしれない(本当に金融にアクセスできない人が使えるようになるかは注視する必要があるが)。

このように、様々な可能性を秘めたLibraであるが、課題も山積している。情報経済学の視点から、論点を整理しておきたい。

1. 巨額の運用資金の投資先

Libraは既存資産による裏付けを行う点に最も大きな特徴がある。ペッグするわけではなく、Libraを販売した際に受け取ったフィアットマネーで、各国通貨や国債を買う。それらの資産はLibraリザーブと呼ばれ、Libraの価値の裏付けとなっている。また、リザーブの時価によってLibraの価格が変動するという仕組みになっている。

そして、Libraが実現した際に最も特徴的なのはその潜在的な規模である。既存のペイメント手段で見ると、アリペイは2017年時点において、5億人のユーザー数で預かり資産が24兆円ともいわれている。これは、一人4.8万円デポジットしたことになる。これをFacebookのユーザー数27億人に当てはめると、約130兆円の預かり資産となる。もっとも、これはLibraが相当成功した場合であって、一人あたり1,000円のデポジットとしても良いが、その場合でも預かり資産は2兆7000億円となる。

日本の年金を運用しているGPIFの預かり資産は120兆円、米国債の毎年の新規発行額は100兆円前後なので、もしLibraがアリペイ並みの成功を収めれば、国際金融秩序にもそれなりの存在感を持つことになるだろう。

つまり、Libraリザーブが特定の国の国債や株を大量に購入すれば、それらを買い支えることも可能であり、また急に売却すれば混乱させることもあり得る。リザーブの運用に関する透明性やガバナンスが課題となるだろう。

2. 運用益の問題

上記のように巨額の資金を国債等で運用することになるが、仮に130兆円規模になれば、1%の利息でも年間1兆3000憶円の運用益が得られる。こうした運用益は利用者には分配されず、Libraの運営者の運営資金や、初期投資者(つまり立ち上げに参画した27社)に分配されるとされている。これは、Facebookをはじめとして参画に関わった各社にとっては大きな収益機会となるだろう。

一方で、利用者がこの状況に黙っているかどうかはわからない。アリペイなら預けているお金で資産運用ができる「余額宝(ユアバオ)」、WeChat Payにも同様の「零銭通(りんせんつう)」というサービスがある。お金を生み出す可能性のある資産が、ただ寝かされている、あるいは持ち主に還元されない、という状況は経済学的には考えにくい。

今後Libraのブロックチェーンはスマートコントラクト機能の充実も含め、よりオープンなプラットフォームになるとされている。そこで、サードパーティが資産運用サービスを展開することも考えられるかもしれない。デポジットしたお金の運用益がどうなるかは、ホワイトペーパーで書かれているように単純に済むかどうかは不透明であり、また今後のビジネスチャンスにもなり得るだろう。

3. 取引所と価格形成の問題

Libraはフィアットマネーや国債等の資産によるリザーブに特徴があり、リザーブの時価でLibraの価格も決まることになっている。この場合において、Libraと他の仮想通貨やフィアットマネーとの取引を、自由にサードパーティのマーケットプレイスに認めるかという問題がある。

というのも、自由に取引を認めた場合、Libraの価格は需要と供給によって決まることになる。ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格形成がそうであるように、買いたい人が多ければ値段は上がっていく。もちろん、新規にLibraを買い入れた場合は、その分の対価のお金でリザーブ資産を買い増せば問題は生じないが、すでに市中に発行してしまったLibraの売買を自由に市場で行った場合、Libraの価格は上がっていく一方、リザーブ資産の価値は(国債や通貨の下落等により)下がっていくという場合がありうる。つまり、Libraの時価とリザーブの資産価格から算出される価格に乖離が生じる可能性がある。

これを防ぐためには、Libraの売買をLibra Associationが一手に行い、価格はあくまでもリザーブ資産から算出された価格に一本化する必要がある。こうなると、両替をAssociationが独占的に担う形になり、両替ビジネスの独占性という点でも注意が必要である。両替のスプレッドから生じる利益も巨額になる可能性があるためである。なお、スプレッドの存在はホワイトペーパーでも認めている。

ホワイトペーパー上では取引所を自由に設立することをエンカレッジするとなっているが、果たしてLibraの価格形成が安定的に行えるのかは詳細に検討する必要があるだろう。

おわりに

イングランド銀行のマーク・カーニー総裁が、(Libraのような規模になると)公共財としての金融システムという側面があり、それを民間企業にゆだねることが妥当かと指摘しているが、投資先や運用益の問題など、規模が大きいがゆえに生じるガバナンス上の問題ともいえる。今後の詳細検討や公聴会での議論に注目したい。

巨大プラットフォーム企業をどう規制すべきか

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される世界的な巨大プラットフォーム企業をどう規制すべきかという議論が急速に活発化している。

この背景として、例えば大手プラットフォーム企業の競争優位の状態が固定化されるとか、個人情報を独占的に取集している、また課税を回避しているなど様々な問題が指摘されている。こうした中、米国のエリザベス・ウォレン上院議員のように、企業分割を主張する人まで現れてきた

しかし、これらの議論には複数の異なる論点が混在していたり、必ずしも論理的な対応ではなく、感情的な反応も見られる。

筆者は、こうした大手プラットフォーム企業に対する規制は、論点を明確に切り分け、それぞれの論点について客観的な事実の検証に基づき、政策効果の高い対策を取るべきだと考えている。以下ではその論点を示していきたい。

1.大手プラットフォーム企業は独占的な地位を用いて不公正な商取引を行っているか

例えば、出店している小売店の出店料を大幅に値上げしたり、一般ユーザーの個人情報を転売できるように利用規約を変更をして、利用者に不利益が生じる変更を行うことが想定される。そして、競合他社がいないために、ユーザーがその条件を受け入れざるを得ないという場合である。これを検証するためには、こうした不当な変更などがあったかどうかを利用者に対して調査する必要がある。こうした不利益変更は、リアルな場面では、デパートの小売店に対する扱いと類似している。

もう一つ問題になっているのは、プラットフォーム上に展開するサービスについて、プラットフォーマー自身のサービスを上位に表示する等によって独占的な地位を濫用していないかという点である。これについても客観的な事例の蓄積が必要である。こちらも、コンビニなど大手チェーンのプライベートブランドと他社製品の競争状態にも類似している。

以上のように、①不利益変更の有無、②他のプラットフォームへの乗り換え可能性の程度、③既存のリアルサービスにおける規制との対比、の3つの視点で状況を確認する必要がある。

2.大手プラットフォーム企業は蓄積されたデータによって、人工知能開発においても優位に立ち、独占的な地位を築くか

人工知能の開発にデータが必要であることは間違いない。そして、大手プラットフォーム企業がビッグデータを抱えているが、そのようなデータを持たない企業は不利だ、という意見がある。

しかしこの数年だけでも、アリババやテンセントは巨大なプラットフォーム企業に成長し、大量のデータを保有するようになった。ほかにも、Uberは大量のモビリティデータを持っているし、Airbnbは観光と宿泊データ、メルカリはC2Cの取引について膨大なデータを持っている。要するに、データはいくらでも作れるのである。ユーザーが便利だと思うサービスさえ作れれば、ユーザーがそれを使うたびにデータは無限に生成される。問題はデータが無いことではなく、ユーザーの支持を得てデータを作れるようなサービスが生まれていないことである。

その一方で、より深刻なのは「人材」の独占である。優秀な学生やエンジニアは、より高い給与とやりがいを求めて、大きな仕事のできるプラットフォーム企業に就職する傾向にある。もちろん、彼らはさらに新しいことにチャレンジすべく辞めていくケースも多く、労働市場の競争状態には何ら問題はない。

問題は、伝統的な日本企業が、そうした人材獲得競争の輪から外れているということである。大手日本企業の中にも、破格の給与を出して優秀な人材を獲得する試みを始めているところもあるが、条件は給与だけではない。社内の風土や、権限の大きさ、意思決定の速さ、ワークスペースの快適性など、優秀な人材を惹きつける要素が揃っているかが重要である。

3.大手プラットフォーム企業は不公正に課税を回避しているか

大手プラットフォーマーの納税額が、標準的な企業と比べて極端に低いことが問題視されており、売上高に課税する「デジタル課税」の導入が検討されている。欧州委員会は、伝統的な企業が23.3%の法人税を払っているのに対して、デジタル企業は平均で9.5%しか支払っていないと推計している

インターネットサービスは、事業拠点を設けなくともリモートでサービスを提供できるため、既存の税制が想定していなかった事態が生じていることは確かである。リモートでサービスを提供していても、道路、通信、社会一般の安全性など各国の公的インフラに依存しているのは確かであり、相応の費用負担を求めるのは合理性がある。公平性と実効性をともに確保できる制度の設計は容易ではないが、検討課題である。

一方、米国のムニューシン財務長官は、事業所の有無にかかわらず売上高に課税するという方法を、「インターネット企業だけ」に適用するというのは、制度の一貫性から問題があると主張している。確かに現在はインターネット企業なのか、金融業なのか、物流業なのか、境界があいまいになりつつあり、どこまで適用するのか検討する必要もあるだろう。

4.大手プラットフォーム企業はユーザーのプライバシーを侵害しているか

プライバシーの問題は、ユーザーのプライバシー、すなわち狭義には「私生活をみだりに公開されない権利」、広義には「自己情報をコントロールする権利」が侵害されているかという問題だが、そこに「他国のサーバーに預けて大丈夫か」というナショナルセキュリティの観点が混在しており、特に論点が混在している課題だ。

前者の問題では、近年のITサービスは一般的に情報の公開範囲を細かく設定できるため、みだりに公開されるという点で問題になるケースは少ない。一方、自己情報のコントロール権という点では、「便利なサービス」ということで、無断で(あるいは読むのが事実上困難な利用規約に書いてあるかもしれないが)自分の情報が活用されていることがある。

例えば電子メールの内容からカレンダーアプリに転載したり、写真から自動的に人物名をタグ付けしたりといったことは、ユーザーが自ら明示的に依頼したわけではないが、企業側がデータを分析してサービスをオファーしている。

より良いサービスの開発のためという目的もあり、また実際にユーザーが便利なものとして受け入れる可能性も充分あるため、一概に線を引くことはできない。しかし、ユーザーが不快に思うサービス変更については、中立的な第三者が情報を収集し、状況を把握する仕組みが必要だろう。

最も重要なのは透明性の確保

いずれの問題にも共通するのは、ネットサービスは何が行われているのか、どのように重要な情報が管理されているのかを、外部から見ることが難しいということだ。そのため、客観的な事実に基づかず、印象のみで規制を議論することになりやすい。

したがって、まず取り組むべきなのはサービスの透明性をどう確保するかである。デジタルな監査、第三者による苦情申し立て制度の拡充、報告制度など検討の余地がある。あるいは、テクノロジーによってユーザーサイドから情報を収集する仕組みも作れるだろう。

ニューヨークタイムズが伝えているが、ウェブの生みの親であるティム・バーナーズ=リーは、2019年3月のイベントで「最も重要なのは、市民が企業と政府に説明責任を果たさせることだ」と述べている。

営業秘密との関係もあるが、プラットフォームが伝統的な「市場」と同じように高い公益性を持ち始めているなか、透明性を高めていくことは、有効な政策を議論する第一歩となるのではないだろうか。

最後に、プラットフォーム企業に規制を設けるのであれば、「それが自国企業でも同じように規制するか?」を問いかける必要がある。それは公平性のためでもあるし、実際に規制が施行されたときに、実効性の観点から言って最も影響を受けるのは、その司法管轄下に本社を置く自国企業だからである。

 

 

ブロックチェーン活用の未来

先日出版した書籍「Blockchain Economics: Implications of Distributed Ledgers: Markets, Communications Networks, and Algorithmic Reality」には、私の論文「Does Blockchain “Decentralize” Everything?: An Insight from Organizational Economics」(ブロックチェーンはすべてを分散化するか?組織経済学からの洞察)が掲載されている。

自律分散型組織(DAO)というキーワードに代表されるように、ブロックチェーンを活用して、あらゆる業務に対して非中央集権的なサービスを作る動きがあるが、どこまで拡張可能かを組織経済学のフレームワークで分析したものだ。

結論を簡単に言えば、自律分散化するためには業務を完全にコーディングする必要があるが、現実には全ての業務を形式化してコーディングするのは難しい。コーディングされない部分は誰かが任意の意思決定を行う必要があり、そこには中央集権的組織構造が残ることになるというものだ。

ビットコインは、トークンの発行と決済という機能に範囲を限定したことで、ほぼすべての業務をコーディングすることができたが、それでもユーザーインタフェースや交換業務などは中央集権的な取引所に依存している。

業務を丸ごとすべてブロックチェーンで置き換えるよりも、トークンの管理や証跡の記録など、一部の機能に特化して使うことで、サービスの信頼性を高めていくことに使うというのが現実的だろう。

ところで、中国ではアリペイやWeChat Payが急速に普及しており、日本でもLINE、メルカリ、Paypay、みずほ銀行など、モバイルペイメントの展開が急ピッチで進んでいる。先日もPaypayのキャンペーンが注目を集めたばかりだ。

これらのモバイルペイメントサービスの多くは、各企業が運営する中央集権化されたサービスである。こうした中央集権化されたペイメントがユーザーに急速に支持され、普及しつつある。「自律分散的」であることが、ユーザーにとって訴求するものがあるかというのもポイントである。

おそらく、ブロックチェーンは、インターネットにおけるSSLのように、「インターネットでできること」を拡張するプロトコルのようなものになるだろう。ネット上で価値を交換したり、証跡を残すことのできるアドオンのようなものである。

もちろん、そのコアの部分にはインフラに近いサービスを提供する可能性はある。例えばビットコインのブロックチェーンは、カラードコインの形で情報証明インフラの機能を果たしている。

ブロックチェーンの活用は、誰もが使えるインフラに近い部分を提供するか、「システムの一部に必要に応じてブロックチェーンを活用したサービス」かのどちらかで考える必要があるのではないだろうか。

Blockchain Economics出版のお知らせ

書籍「Blockchain: Blueprint for a New Economy」で知られるMelanie Swan氏らとともに、「Blockchain Economics: Implications of Distributed Ledgers: Markets, Communications Networks, and Algorithmic Reality」という書籍を発刊させていただきました。

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私は編者の一人として書籍全体の編集に関わったほか、私自身の章も採録されています。

本書籍は査読付き論文を採録した学術図書であり、ブロックチェーンの持つ意味合いや影響について専門的に踏み込んだ内容の書籍となっています。

私自身の論文は第2章となっています。

Chapter 2: Does Blockchain “Decentralize” Everything?: An Insight from Organizational Economics(ブロックチェーンはすべてを分散化できるか?組織経済学からの洞察)

ブロックチェーンがどこまで組織を分散化できるのか、組織経済学の観点から論じたものとなっています。

要旨は以下の通りです。

There have been increasing expectations that blockchain technology would decentralize organizations in a wider range of services such as sharing economy, public ledgers, and electricity. On the other hand, decentralization is facing difficult challenges such as seen in the split of Bitcoin and the growing expectation on permissioned ledgers. This chapter aims to shed light on the economic mechanisms behind blockchain-enabled decentralization from the viewpoint of organizational economics. An analysis is provided with an in-depth case study of the Bitcoin ecosystem. Results reveal that blockchain technology decentralizes organizations by reducing uncertainty through codifying tasks and also by reducing the risk of opportunism through the governance by distributed participants, while those decentralization applies only to a fraction of the whole ecosystem. Additionally, decentralization sacrifices workers’ incentives such as income risk aversion and efficient decision-making. Therefore, the extent of blockchain-enabled decentralization is determined by the trade-offs between efficiency through tasks marketization and workers’ incentives.

よろしければお手に取ってご覧ください。

 

「ブロックチェーン・エコノミクス」 の将来〜ブロックチェーン技術は社会と経済にどのような影響を与えうるか

8月31日(金)に、ブロックチェーンハブにて表記の講演をさせていただきます。ご関心の方はこちらよりお申し込みください。

日時 2018/08/31 (金)  19:00 – 20:30 JST
会場 ブロックチェーンハブ日本橋事務所 (千城ビル5階)

特別講義  ブロックチェーンの応用可能性

ブロックチェーン技術は仮想通貨のみならず、様々な分野における活用可能性が指摘されている。しかし、それがもたらす本質的な影響や、具体的な活用への道筋は必ずしも明らかではない。本講演では、一般財団法人機械システム振興協会が国際大学GLOCOMに委託して調査を実施し作成した「ブロックチェーン技術の応用に関する戦略策定」報告書の内容を元に、ブロックチェーン技術が金融以外を含めた多様な分野において、どのような影響を与えうるか、どのような活用が可能かを検討する。

講演内容

・ブロックチェーンの本質的影響

・本質的影響と事例

・技術的展開に関するシナリオ

・各分野への影響(「金融」、「エネルギー」、「製造業」、「行政」、「知識情報 サービス」)

・課題とまとめ

ZMP自動運転タクシー実証実験

本日、ZMP社と日の丸交通が手がける自動運転車によるタクシーの実証実験に参加し、六本木から大手町のルートに乗車した。取り急ぎ感想をメモしておきたい。

事前にスマホアプリからルートを選択して日時を予約しておき、無人のタクシーに乗車するというシナリオである(実証実験なので実際には乗務員とスタッフが同乗する)。決済は事前にクレジットカードを登録しておくので、降車後に自動的に精算される仕組みだ。

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六本木ヒルズの乗り場

 

時間になると、カープールから指定の乗車場に自動運転でやってくる。随分慎重な運転で、おずおずとやってくるという印象(といっても、六本木ヒルズの車寄せは車が多く、人間でもある程度慎重にならざるを得ない)。

 

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乗車位置に車が到着

 

アプリで車のQRコードを読み込むとドアが開き、乗り込む。車内のタブレットで諸々確認ボタンを押すと、ドアが閉まって自動的に動き出す。

六本木から大手町のルートは、なかなか大変なルートである。そもそも六本木ヒルズの車寄せ自体が複雑で車が多いし、人間でも迷いそう。六本木通りも車が多く、また流れも早く、路駐も多い。

運転自体は、概ね問題なく進んでいく。時折ギクシャクした感じはあるが、初心者の運転者よりはスムーズといった感じ。ただし、人間と違う部分がいくつかある。

  • 車線を厳守して走るので、カーブで少し内側をカットしたりしない。よって割と急カーブで曲がる場合もある。
  • 人間だと隣車線の車ともう少し距離を取りたくなるような場面でも、動じずに車線をキープ(多分レーダーでは安全な距離という判断だろう)。

ごく稀に介入が必要な場面はあったが、95%は何の問題もなく進んでいき、そのうち自動運転であることを忘れてしまいそうだった。

ただ、残り5%はネックである。例えば今回の場合、左折のために左車線に入ったところで路上駐車の車があり、しかもそこは黄色線のため右に膨らむこともできずに停まってしまう場面があった。人間だとまあ許容範囲ということで右に膨らんで通るが、ルール厳守だとどうにも動けなくなってしまう。こうした異常ケースをゼロにするのはなかなか大変そうである。

今回は無人タクシーを想定した実験とのことだったが、異常時ということも考えると、完全に無人にする必要があるかは疑問でもあった。おもてなしを主眼とするドライバーが座っていてもいいし、乗客自身が異常時の対応をしても良いかもしれない。

そうこうするうちに、大手町に到着。人間のドライバーよりは時間がかかったかもしれないが、特に問題もなく到着した印象。

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大手町に到着

 

ということで、感じた点をメモにしておく。

すごいと思った点

  • 車も多く、流れも早い複雑な公道を走るというタスクにおいて、95%は問題なくできるということは改めてすごいと思った。
  • 乗り心地などのインクリメンタルな改善は時間の問題なので、早々に解決されそう。

疑問に思った点

今回はルートも車線も事前に設定されているようだったが、ルートのインプットはどのような方法で行う必要があり、フレキシビリティがあるのだろうか。カーナビで行き先を指定できるようになるまでには、どのくらい差があるのだろうか。

こうすれば良いのでは、という提案

  • 都内の混雑道路での実証実験もすごいとは思うが、高速道路だけならもっと早く実用化できるのではないか。PA/SA間の指定で自動運転してくれれば、ドライバーとして非常に楽になる。
  • 異常ケースがゼロになることはなさそうであると考えると、ドライバーが全く無人になるというのは難しいようにも感じた。むしろ乗客自身が運転席に座ってもいいかもしれない。指定の場所に自動運転で無人の車がやってきて、乗客が乗り込む。基本は自動運転で進んでいくが、異常時は乗客が介入しても良い。到着したら乗り捨てておけば、自動でカープールに戻っていく。カーシェアに近いサービスだが、こちらの方が現実味がありそうだ。
  • 一方で、無人タクシーは、普段タクシーがあまり走っていない住宅地や郊外などで、買い物にいく際などには重宝しそう。郊外は道路もシンプルだし、停めるところもたくさんあって、異常ケースは比較的少ないかもしれない。しかも現状ではタクシーがつかまらない場合が多いからニーズもありそう。

ということで、色々と考える機会となる貴重な経験だった。ZMPと日の丸交通の皆様、ありがとうございました。

 

Financial Inclusion

Singapore Fintech Festivalのテーマの一つが、Financial Inclusion、すなわち貧しいために金融サービスの便益を享受できていない人々に金融を提供するというものであった。

最終日にはこの分野の第一人者で、国連のSpecial Advocateを務めているオランダのマキシマ女王もスピーチを行った。

世界にはおよそ20億人の人々が金融サービスを受けることができていないという。例えば、貧しくて銀行口座を開設できない、農村で働いているため銀行が近くにないといった要因で、金融サービスをほとんど受けることができず、現金のみで生活しているようなケースだ。

これは、どのような問題になるのだろうか。

例えば、働いた報酬を全て現金で受け取る。銀行は隣町にあるので、貯蓄して金利を受け取ることができない。もちろん、口座がないので融資を受けることも難しいし、保険に入ることもできない。

このように、せっかく働いて報酬を得ても、その対価を有効に活用することができず、結果として貧しさから抜け出せないという問題がある。

広い意味では、自分のお金を自分でコントロールできるということは、私有財産制の徹底と言ってもよい。働いて得たお金を、送ったり、貯蓄したり、投資したり、物を買う対価として支払ったりといった活動を自由に行えるということは、人間の自律的な経済活動の根幹でもある。こうした私有財産の徹底は、資本主義と民主主義の基礎でもある。

また、融資を受けたりや投資することはは、自分の将来への投資でもあるし、未来の時間を先取りして有効に活用することでもある。保険はリスクを管理してより効果的・効率的な資源の使い方を可能にする。就学のためのローン、事業資金の借り入れが可能になれば、本人の成長にとっても、経済全体にとってもプラスになる。

Financial Inclusionは、こうした問題をテクノロジーの力で解決しようとする運動である。

ただし、金融へのアクセスが可能になるからといって、全ての人に融資すべきということではないだろう。適切な審査を行うことは貸し手にとっても借り手にとっても必要なはずである。また、デジタルになれば金利等の設定が見えにくくなることもある。この辺は当局による規制や監督が必要になる。

ところで、規制(Regulation)をITを使って円滑に進めることも可能だ。これらはRegTechとも呼ばれる。世の中の業務がデジタルになるにつれ、規制の運用もデジタルに行うことで、より効率的に規制監督を行うことができる。

いずれにせよ、貧しさから抜け出せない原因の一つに、金融の欠落があるとすれば、それをテクノロジーで補う余地がある。適切な規制・監督のもと、個人の自立と尊厳が守られるよう、現場の課題を解決するサービスが企画されることに期待したい。

 

ブロックチェーンと企業のかたち

日立製作所のExecutive Foresight Onlineに、インタビュー記事を掲載して頂きました。このサイトでは、技術と社会、経営など非常に幅広いテーマで記事が掲載されています。

私は、「新たな企業経営のかたちを探る【ブロックチェーン×経営】 ブロックチェーンが社会を変える」と題して、3回シリーズで掲載して頂きました。

第1回:価値の交換の新しいインフラ

第2回:仮想通貨を超えるさまざまな活用法

第3回:貨幣、企業、組織はどう変わる?

よろしければご覧ください。

 

 

ビットコイン分裂から考える「分散性」の課題

最近、巷を騒がせているビットコインの分裂問題。一時は分裂は回避されたとする見方もあったが、8月1日以降、BitcoinとBitcoin Cashに分裂するという見方が強くなった。執筆時点では、実際にBitcoin CashがBitcoinから分裂し、新たな通貨としてドルに対する値付けもされているようだ。

この分裂問題は、そもそもはビットコインの機能改善を狙ったものだ。機能改善の方法に複数の提案がなされており、どれを採用するかで単一の解決策へ合意形成ができなかった場合に分裂が起こるというものである。

改善すべき機能というのは、いわゆる「スケーラビリティ問題」と呼ばれるもので、現状では1秒間に7取引しか処理することができないというものである。このままビットコインが普及していけば(あるいは現状でも既に)処理が間に合わず、ビットコインの決済機能自体の信頼性が失われることが危惧されている。

ところで、ビットコインには下記のように、様々なステークホルダーがいる。

  • マイナー(ブロックを作成し、台帳を維持する役割)
  • 開発者(ビットコインを動かすためのソフトウェアの開発者)
  • 取引所運営者(ビットコイン等の仮想通貨の取引を仲介する事業者)
  • 一般ユーザー(ビットコインを投資や決済目的で使用するユーザー)

このうち、機能改善に向けて様々な提案を行ったり、ソフトウェアを開発するのは、通常②の「開発者」である。彼らは、ビットコインの開発者コミュニティの作法に従い、改善策を提案し、実際に改善版のソフトウェアを作成する。中には①マイナーと②開発者を兼ねる主体もいるかもしれない。改善案は、BIP(Bitcoin Improvement Proposals)に番号が付いた形で提案される。これまで出てきた改善案は、以下のようなものだ。

 

主な機能改善案

BIP91

これは、取引データの圧縮とブロックサイズの倍増をセットで行う「Segwit2x」と呼ばれるものを内容とする。前半のSegwitとはSegregated Witnessの略で直訳すると「分離された検証」すなわち、署名を分離するという意味である。各取引データに付いていた署名の一部を、ブロックごとにまとめて行うことで、取引データごとのデータサイズを小さくして、結果的に一つのブロックに入る取引データを増やすものだ。2xは見た通り2倍という意味であり、現在1メガバイトの制限があるブロックサイズを、倍の2メガバイトにする。

この改善案をどう決定するか、その意思決定方法についても提案されている。ある時点から約2日半の期間に作成されたブロックのうち、80%以上のブロックにSegwitに賛成するという意思表示が書き込まれていた場合、ブロックチェーン全体がSegwitを採用することとし、対応していないものは無効とするというものだ。ちなみにブロックに意思表示を記入するのは上記の①マイナーである。この手順でSegwitが有効かされたのち、6ヶ月以内にブロックサイズの2倍への拡張も行われることになる。

 BIP148

UASF(User Activated Soft Fork)とも呼ばれる。上記のSegwitのみを行うという提案。但し、その決定方法がBIP91とは異なり、投票によって集団的な意思決定を経ることなく、強制的にSegwitを支持していないブロックを不正とみなす。従って、Segwit対応ブロックチェーンと、非対応ブロックチェーンで分裂する可能性がある。
※但し、これはSegwitがなかなか実現しない場合にのみ発動されるもので、現時点では上記BIP91が十分な賛成が得られたため、BIP148が発動されることはないと見られている。

Bitcoin Cash

Segwitを行わず、ブロックサイズを8MBに拡張する。Bitcoin Cashを推進するグループは、投票などによらず、機械的に8月1日にこの仕様に基づくソフトウェアで運用を開始する。これにより、ビットコインは従来のものとBitcoin Cashに分裂する。なお、この提案を指すものとして、UAHF(User Activated Hard Fork)やBitcoin ABCと呼ばれることもある。

 

異なる合意形成手法 

これらの改善案は、スケーラビリティ問題に対する改善案はいずれも大きく異なるものではない。取引データを小さくしてブロックにたくさん入るようにするか、ブロックサイズを大きくするかというものであるし、その大きさが若干違うという程度のものだ。

しかし、より大きく異なるのは、その合意形成手法である。そもそもビットコインには、台帳のバージョンに対する合意形成は優れた設計がなされているものの、その仕組みの更新に関する合意形成手法は組み込まれていない。そのため、各提案の中に合意形成手法も併せて提案されることになる。

BIP91はマイナーによる投票を行い、8割以上の賛成によって全体を移行させることを目指す。集団的意思決定において反対者も含めて全体に影響を与えるという点では、投票による民主主義と似ているおり、理解しやすいだろう。(実際に8割以上の賛成を得ることができた。)

BIP148は投票を経ずに、強制的にあるタイミングで全体を移行させることを目指す。この場合、合意形成プロセスは何ら経られていないので、賛成派と反対派で分裂する可能性がある。

Bitcoin Cashは、BIP148と同様に投票を行わないが、そもそもビットコインをバージョンアップさせることを目的とするのではなく、別のコインに分岐させることを目指している

 

分裂の原因とコスト

BIP91と148は、曲がりなりにもビットコインそのものをバージョンアップすることを目指しており、最悪の場合は分裂する可能性を含んでいるというものだ。分裂する可能性があるのは通常の民主主義の手続きと異なり、少数派が多数派の決定に従わなければならない機構は存在しないためである。したがって、少数派であっても、自らの仕組みを信じ続ければ、その仕組みで運用を続けることは可能である。その場合は誰からも相手にされないコインを管理し続けることになるかもしれないが、一定の人数が集まれば、仮想通貨として生き残ることは可能かもしれない。

このように、ビットコインの分裂は、多数派の意見を全体に強制する仕組みが無いという仕組み上の問題から発生している。こうした分裂は、ビットコインの機能の進化という点では評価できる一面もある。しかし、原則的には、分裂の際には利用度に応じてコインの時価総額も主流コインと分岐コインで分割されることになるだろう(制度ではなく、市場の評価による)。そうなれば、主流コインのみを利用し続ける利用者は損をすることになるため、分裂のたびに複数のコインを管理しなければならなくなる。したがって、こうした管理コストについても考慮しておく必要があるだろう。

 

意思決定への参加者

また、もう一つの問題は、誰がこの分岐の意思決定に関わるのかという問題である。現状では、合意形成における意思表示は、ブロックを作成する係であるマイナーが、ブロックに埋め込む形で行われる。したがって、投票権を持っているのはマイナーたちである。マイナーも一人一票持っているわけではなくあくまでも作成できたブロックに対して一票ということになり、ブロックを多く作成できるマイナーは多くの票を持つことができる

ところで、マイナーは上位5社で半分以上のシェアを持っている。上位5社で、投票権の半分を持っているということになる(https://blockchain.info/pools参照)。

もともと、マイニングには誰でも参加することができる。しかし誰がブロック作成を優先的に行うか決める必要があり、そのためにProof of Workといういわば「誰にでもできる」計算処理を課すことにした。しかしその「誰にでもできる」という特性は、単純な計算能力の競争をもたらし、結果としてマイナーの寡占化につながってきた。機会の平等は確保したが、結果の平等は保障されないということである。

こうしたマイナー寡占化という問題は以前から指摘されていたものの、台帳管理だけでなく、ソフトウェアのバージョンアップのような重要な意思決定という場面を迎え、新たに脚光を浴びることになるかもしれない。(但し、一般ユーザーやトレーダーの行動が分岐したコインの価格に影響を与え、この価格が間接的にマイナーの行動に影響を与えるとの考え方もある。詳細はこちらを参照。)

 

社会的アーキテクチャも含めた進化の過程

こうした分裂問題に関する混乱は、Bitcoin Cashによって、それが現実に起こりうることが明らかになったことで、今後も起こる可能性は十分にあるだろう。分裂には一定のコストもあり、分裂を防ぐには少数派を多数派の意思に従わせるという権力機構が必要になるだろう。

それでは、これまでの社会的なアーキテクチャに逆戻りすることになるようにも見える。それよりは、多少のコストを払ってでも、分裂を繰り返しながら進化していくことを見守ることも必要なのかもしれない。

 

 

※本記事は執筆者の個人的見解を提供するものです。本記事に記載された情報によって生じるいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。投資等は各自の判断にて行うようにしてください。

ブロックチェーンを使う価値とは何か

先日の社会・経済システム学会の研究会でも話題になったが、ブロックチェーンについては、「結局ブロックチェーンを使うと何がいいんだっけ?」という点について議論になることがある。

ブロックチェーンは多様な特性や使い方、バリエーションがあるため、一概に言えないことが、議論を混乱させる面があるが、一旦現時点での考え方をラフにまとめておいたので示しておきたい。

以前にも書いたが、ブロックチェーンには3つの要素が含まれている。スライド1

この要素を出発点としつつ、現時点でブロックチェーンの活用には3つの方向性があるだろう。第一が一般的なデータベースの代わりとして使うというもの。第二が仮想通貨やトークンの機能を中心に使うもの。そして第三に自律分散的なサービスの仕組みとして使うというものである。

それぞれの使い方の例と、メリット、そしてデメリット・課題を以下の表にまとめた。スライド1

詳細の説明は割愛するが、個別的なメリットと、共通的なメリットがあるだろう。個別的なメリットには、低コストでスピーディな開発が可能、低コストな送金・決済が可能といったものがある。

しかし、より共通的な、また本質的なメリットは、おそらく「情報や通貨の信頼が、組織への信頼に依存しない」ということに尽きるのではないかと思う。従来であれば、「◯◯会社が発行・運用しているものだから安心」、「◯◯協議会が運営しているものだから信頼できる」として、ユーザーが受容していた。

ブロックチェーンを使う場合は、こうした組織への信頼を、アルゴリズムへの信頼で置き換える形となる。したがって、設立間もないベンチャー企業が立ち上げたデジタル通貨でも、一定の信頼を持ってユーザーが受容することができる。

逆に言えば、アルゴリズムの透明性を保ち、信頼を担保できるかは大きな課題だ。

この辺は、ユーザーの受容性という主観に関わる部分なのでまだまだ議論の余地があるところだが、「組織への信頼」に依拠する場合には、そうした組織を立ち上げ、確立するためのコストが膨大にかかる。こうした組織を立ち上げるための社会的なコストが削減されるというのが、最も大きなメリットなのかもしれない。