Facebookの仮想通貨Libraの経済学的論点

Facebookが主導する仮想通貨Libraが発表された。Libraは27のパートナー企業とともに、Libra Associationによって管理・運営されるという。

これまで、ブロックチェーンを用いたビジネスモデルは多種多様なものが構想され、実証され、一部は実際に運用されてきた。ブロックチェーンの価値記録の特性を活かして企業が経済圏を作るというのは、活用方法としては王道であり、目新しいものではないが、27億人というFacebookのユーザー数を考えたとき、その規模の大きさは、これまでの取り組みに類を見ないものである。

システム的なおさらいをしておくと、今回提案されているLibraはLibra Associationの意思決定をつかさどるLibra Association Councilのメンバー企業、すなわち初期の27の立ち上げメンバー企業が、一台ずつノードを出し合うパーミッションドの構成で作られる(通常、この形態はコンソーシアムと呼ばれる)。パーミッションドは透明性やオープン性の点で課題も多く、ブロックチェーンの良さを引き出しているとは言えない面もあるが、その点はLibra側も十分認識しているらしく、ホワイトペーパーでは運用開始後5年以内にパーミッションレス(オープン)なブロックチェーンへの移行を目指すとしている。

その本気度は、スマートコントラクト用に新たなプログラミング言語「Move」を開発してまで進めていることからもわかる。ゆくゆくは、だれもがMoveで書いたコードをLibra Blockchain上で動かすことができるようになるという。マネーだけでなく、グローバルなロジック動作の基盤までをもインフラ的に提供することになれば、そのインパクトは大きいだろう。

Facebookメッセンジャーなどで、簡単にお金を人と人の間で送金できるようになれば、新しいお金の流れや経済活動を生み出すことも期待される。ホワイトペーパーが謳うように、Financial Inclusionにも貢献することもあるかもしれない(本当に金融にアクセスできない人が使えるようになるかは注視する必要があるが)。

このように、様々な可能性を秘めたLibraであるが、課題も山積している。情報経済学の視点から、論点を整理しておきたい。

1. 巨額の運用資金の投資先

Libraは既存資産による裏付けを行う点に最も大きな特徴がある。ペッグするわけではなく、Libraを販売した際に受け取ったフィアットマネーで、各国通貨や国債を買う。それらの資産はLibraリザーブと呼ばれ、Libraの価値の裏付けとなっている。また、リザーブの時価によってLibraの価格が変動するという仕組みになっている。

そして、Libraが実現した際に最も特徴的なのはその潜在的な規模である。既存のペイメント手段で見ると、アリペイは2017年時点において、5億人のユーザー数で預かり資産が24兆円ともいわれている。これは、一人4.8万円デポジットしたことになる。これをFacebookのユーザー数27億人に当てはめると、約130兆円の預かり資産となる。もっとも、これはLibraが相当成功した場合であって、一人あたり1,000円のデポジットとしても良いが、その場合でも預かり資産は2兆7000億円となる。

日本の年金を運用しているGPIFの預かり資産は120兆円、米国債の毎年の新規発行額は100兆円前後なので、もしLibraがアリペイ並みの成功を収めれば、国際金融秩序にもそれなりの存在感を持つことになるだろう。

つまり、Libraリザーブが特定の国の国債や株を大量に購入すれば、それらを買い支えることも可能であり、また急に売却すれば混乱させることもあり得る。リザーブの運用に関する透明性やガバナンスが課題となるだろう。

2. 運用益の問題

上記のように巨額の資金を国債等で運用することになるが、仮に130兆円規模になれば、1%の利息でも年間1兆3000憶円の運用益が得られる。こうした運用益は利用者には分配されず、Libraの運営者の運営資金や、初期投資者(つまり立ち上げに参画した27社)に分配されるとされている。これは、Facebookをはじめとして参画に関わった各社にとっては大きな収益機会となるだろう。

一方で、利用者がこの状況に黙っているかどうかはわからない。アリペイなら預けているお金で資産運用ができる「余額宝(ユアバオ)」、WeChat Payにも同様の「零銭通(りんせんつう)」というサービスがある。お金を生み出す可能性のある資産が、ただ寝かされている、あるいは持ち主に還元されない、という状況は経済学的には考えにくい。

今後Libraのブロックチェーンはスマートコントラクト機能の充実も含め、よりオープンなプラットフォームになるとされている。そこで、サードパーティが資産運用サービスを展開することも考えられるかもしれない。デポジットしたお金の運用益がどうなるかは、ホワイトペーパーで書かれているように単純に済むかどうかは不透明であり、また今後のビジネスチャンスにもなり得るだろう。

3. 取引所と価格形成の問題

Libraはフィアットマネーや国債等の資産によるリザーブに特徴があり、リザーブの時価でLibraの価格も決まることになっている。この場合において、Libraと他の仮想通貨やフィアットマネーとの取引を、自由にサードパーティのマーケットプレイスに認めるかという問題がある。

というのも、自由に取引を認めた場合、Libraの価格は需要と供給によって決まることになる。ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格形成がそうであるように、買いたい人が多ければ値段は上がっていく。もちろん、新規にLibraを買い入れた場合は、その分の対価のお金でリザーブ資産を買い増せば問題は生じないが、すでに市中に発行してしまったLibraの売買を自由に市場で行った場合、Libraの価格は上がっていく一方、リザーブ資産の価値は(国債や通貨の下落等により)下がっていくという場合がありうる。つまり、Libraの時価とリザーブの資産価格から算出される価格に乖離が生じる可能性がある。

これを防ぐためには、Libraの売買をLibra Associationが一手に行い、価格はあくまでもリザーブ資産から算出された価格に一本化する必要がある。こうなると、両替をAssociationが独占的に担う形になり、両替ビジネスの独占性という点でも注意が必要である。両替のスプレッドから生じる利益も巨額になる可能性があるためである。なお、スプレッドの存在はホワイトペーパーでも認めている。

ホワイトペーパー上では取引所を自由に設立することをエンカレッジするとなっているが、果たしてLibraの価格形成が安定的に行えるのかは詳細に検討する必要があるだろう。

おわりに

イングランド銀行のマーク・カーニー総裁が、(Libraのような規模になると)公共財としての金融システムという側面があり、それを民間企業にゆだねることが妥当かと指摘しているが、投資先や運用益の問題など、規模が大きいがゆえに生じるガバナンス上の問題ともいえる。今後の詳細検討や公聴会での議論に注目したい。

書籍『デフレーミング戦略』予約開始

私の新著『デフレーミング戦略 アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則』が、Amazonにて予約開始となっております。7/16発売予定です。

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プラットフォーム、キャッシュレス、ニューリテール、信用スコア、ブロックチェーンなど最新のテクノロジーとビジネス動向を踏まえ、今後のビジネスモデルから組織の形、働き方までを幅広く論じています。

その核となるキーワードとして『デフレーミング』(フレーム:枠が崩壊するという意味の造語を提示しました。

どうぞお手に取ってご覧ください。

内容紹介(Amazonより)

本書の目的は、「デフレーミング」という概念でデジタル化がビジネスや経済に与える本質的な影響を明らかにすることです。

「デフレーミング」とは、枠(フレーム)が崩壊するという意味の造語。デジタル技術が社会経済に与える影響を理解するための共通的なフレームワークとして、ビジネスモデル、企業のビジネス戦略から、私たちの働き方、キャリア設計、学び方にいたるまで、あらゆる変化をとらえる鍵となります。

デフレーミング戦略とは、伝統的な製品、サービス、組織などの「枠」を越えて、それらの内部要素をデジタル技術で組み直すことで、ユーザーにより最適化されたサービスを提供できるようにすること。従来の「サービス」や「組織」といった「枠」がなくなる時代に、万人に受けるパッケージ化されたものから、ユーザーに個別最適化されたものに転換させ、企業という枠で仕事を受発注するのではなく、個人のスキルやリソースを個別に特定して取引するビジネスの考え方です。

本書では、その様々な現象や事例を通じて、今後のビジネスやサービスの変化を考察するとともに、近年クローズアップされている「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)についても、それが社会に与える深い影響を、明らかにします。

【本書に出てくるトピック、キーワード】
・デフレーミングというフレームワーク
・デジタルトランスフォーメーション
・GAFAの今後の展開
・中国 アリババ、テンセント、Line,WeChat、インスタグラム、美団、ZOZO
・個人の信用経済と決済、電子マネー
・プライバシー問題
など

 

巨大プラットフォーム企業をどう規制すべきか

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される世界的な巨大プラットフォーム企業をどう規制すべきかという議論が急速に活発化している。

この背景として、例えば大手プラットフォーム企業の競争優位の状態が固定化されるとか、個人情報を独占的に取集している、また課税を回避しているなど様々な問題が指摘されている。こうした中、米国のエリザベス・ウォレン上院議員のように、企業分割を主張する人まで現れてきた

しかし、これらの議論には複数の異なる論点が混在していたり、必ずしも論理的な対応ではなく、感情的な反応も見られる。

筆者は、こうした大手プラットフォーム企業に対する規制は、論点を明確に切り分け、それぞれの論点について客観的な事実の検証に基づき、政策効果の高い対策を取るべきだと考えている。以下ではその論点を示していきたい。

1.大手プラットフォーム企業は独占的な地位を用いて不公正な商取引を行っているか

例えば、出店している小売店の出店料を大幅に値上げしたり、一般ユーザーの個人情報を転売できるように利用規約を変更をして、利用者に不利益が生じる変更を行うことが想定される。そして、競合他社がいないために、ユーザーがその条件を受け入れざるを得ないという場合である。これを検証するためには、こうした不当な変更などがあったかどうかを利用者に対して調査する必要がある。こうした不利益変更は、リアルな場面では、デパートの小売店に対する扱いと類似している。

もう一つ問題になっているのは、プラットフォーム上に展開するサービスについて、プラットフォーマー自身のサービスを上位に表示する等によって独占的な地位を濫用していないかという点である。これについても客観的な事例の蓄積が必要である。こちらも、コンビニなど大手チェーンのプライベートブランドと他社製品の競争状態にも類似している。

以上のように、①不利益変更の有無、②他のプラットフォームへの乗り換え可能性の程度、③既存のリアルサービスにおける規制との対比、の3つの視点で状況を確認する必要がある。

2.大手プラットフォーム企業は蓄積されたデータによって、人工知能開発においても優位に立ち、独占的な地位を築くか

人工知能の開発にデータが必要であることは間違いない。そして、大手プラットフォーム企業がビッグデータを抱えているが、そのようなデータを持たない企業は不利だ、という意見がある。

しかしこの数年だけでも、アリババやテンセントは巨大なプラットフォーム企業に成長し、大量のデータを保有するようになった。ほかにも、Uberは大量のモビリティデータを持っているし、Airbnbは観光と宿泊データ、メルカリはC2Cの取引について膨大なデータを持っている。要するに、データはいくらでも作れるのである。ユーザーが便利だと思うサービスさえ作れれば、ユーザーがそれを使うたびにデータは無限に生成される。問題はデータが無いことではなく、ユーザーの支持を得てデータを作れるようなサービスが生まれていないことである。

その一方で、より深刻なのは「人材」の独占である。優秀な学生やエンジニアは、より高い給与とやりがいを求めて、大きな仕事のできるプラットフォーム企業に就職する傾向にある。もちろん、彼らはさらに新しいことにチャレンジすべく辞めていくケースも多く、労働市場の競争状態には何ら問題はない。

問題は、伝統的な日本企業が、そうした人材獲得競争の輪から外れているということである。大手日本企業の中にも、破格の給与を出して優秀な人材を獲得する試みを始めているところもあるが、条件は給与だけではない。社内の風土や、権限の大きさ、意思決定の速さ、ワークスペースの快適性など、優秀な人材を惹きつける要素が揃っているかが重要である。

3.大手プラットフォーム企業は不公正に課税を回避しているか

大手プラットフォーマーの納税額が、標準的な企業と比べて極端に低いことが問題視されており、売上高に課税する「デジタル課税」の導入が検討されている。欧州委員会は、伝統的な企業が23.3%の法人税を払っているのに対して、デジタル企業は平均で9.5%しか支払っていないと推計している

インターネットサービスは、事業拠点を設けなくともリモートでサービスを提供できるため、既存の税制が想定していなかった事態が生じていることは確かである。リモートでサービスを提供していても、道路、通信、社会一般の安全性など各国の公的インフラに依存しているのは確かであり、相応の費用負担を求めるのは合理性がある。公平性と実効性をともに確保できる制度の設計は容易ではないが、検討課題である。

一方、米国のムニューシン財務長官は、事業所の有無にかかわらず売上高に課税するという方法を、「インターネット企業だけ」に適用するというのは、制度の一貫性から問題があると主張している。確かに現在はインターネット企業なのか、金融業なのか、物流業なのか、境界があいまいになりつつあり、どこまで適用するのか検討する必要もあるだろう。

4.大手プラットフォーム企業はユーザーのプライバシーを侵害しているか

プライバシーの問題は、ユーザーのプライバシー、すなわち狭義には「私生活をみだりに公開されない権利」、広義には「自己情報をコントロールする権利」が侵害されているかという問題だが、そこに「他国のサーバーに預けて大丈夫か」というナショナルセキュリティの観点が混在しており、特に論点が混在している課題だ。

前者の問題では、近年のITサービスは一般的に情報の公開範囲を細かく設定できるため、みだりに公開されるという点で問題になるケースは少ない。一方、自己情報のコントロール権という点では、「便利なサービス」ということで、無断で(あるいは読むのが事実上困難な利用規約に書いてあるかもしれないが)自分の情報が活用されていることがある。

例えば電子メールの内容からカレンダーアプリに転載したり、写真から自動的に人物名をタグ付けしたりといったことは、ユーザーが自ら明示的に依頼したわけではないが、企業側がデータを分析してサービスをオファーしている。

より良いサービスの開発のためという目的もあり、また実際にユーザーが便利なものとして受け入れる可能性も充分あるため、一概に線を引くことはできない。しかし、ユーザーが不快に思うサービス変更については、中立的な第三者が情報を収集し、状況を把握する仕組みが必要だろう。

最も重要なのは透明性の確保

いずれの問題にも共通するのは、ネットサービスは何が行われているのか、どのように重要な情報が管理されているのかを、外部から見ることが難しいということだ。そのため、客観的な事実に基づかず、印象のみで規制を議論することになりやすい。

したがって、まず取り組むべきなのはサービスの透明性をどう確保するかである。デジタルな監査、第三者による苦情申し立て制度の拡充、報告制度など検討の余地がある。あるいは、テクノロジーによってユーザーサイドから情報を収集する仕組みも作れるだろう。

ニューヨークタイムズが伝えているが、ウェブの生みの親であるティム・バーナーズ=リーは、2019年3月のイベントで「最も重要なのは、市民が企業と政府に説明責任を果たさせることだ」と述べている。

営業秘密との関係もあるが、プラットフォームが伝統的な「市場」と同じように高い公益性を持ち始めているなか、透明性を高めていくことは、有効な政策を議論する第一歩となるのではないだろうか。

最後に、プラットフォーム企業に規制を設けるのであれば、「それが自国企業でも同じように規制するか?」を問いかける必要がある。それは公平性のためでもあるし、実際に規制が施行されたときに、実効性の観点から言って最も影響を受けるのは、その司法管轄下に本社を置く自国企業だからである。

 

 

ブロックチェーンを使う価値とは何か

先日の社会・経済システム学会の研究会でも話題になったが、ブロックチェーンについては、「結局ブロックチェーンを使うと何がいいんだっけ?」という点について議論になることがある。

ブロックチェーンは多様な特性や使い方、バリエーションがあるため、一概に言えないことが、議論を混乱させる面があるが、一旦現時点での考え方をラフにまとめておいたので示しておきたい。

以前にも書いたが、ブロックチェーンには3つの要素が含まれている。スライド1

この要素を出発点としつつ、現時点でブロックチェーンの活用には3つの方向性があるだろう。第一が一般的なデータベースの代わりとして使うというもの。第二が仮想通貨やトークンの機能を中心に使うもの。そして第三に自律分散的なサービスの仕組みとして使うというものである。

それぞれの使い方の例と、メリット、そしてデメリット・課題を以下の表にまとめた。スライド1

詳細の説明は割愛するが、個別的なメリットと、共通的なメリットがあるだろう。個別的なメリットには、低コストでスピーディな開発が可能、低コストな送金・決済が可能といったものがある。

しかし、より共通的な、また本質的なメリットは、おそらく「情報や通貨の信頼が、組織への信頼に依存しない」ということに尽きるのではないかと思う。従来であれば、「◯◯会社が発行・運用しているものだから安心」、「◯◯協議会が運営しているものだから信頼できる」として、ユーザーが受容していた。

ブロックチェーンを使う場合は、こうした組織への信頼を、アルゴリズムへの信頼で置き換える形となる。したがって、設立間もないベンチャー企業が立ち上げたデジタル通貨でも、一定の信頼を持ってユーザーが受容することができる。

逆に言えば、アルゴリズムの透明性を保ち、信頼を担保できるかは大きな課題だ。

この辺は、ユーザーの受容性という主観に関わる部分なのでまだまだ議論の余地があるところだが、「組織への信頼」に依拠する場合には、そうした組織を立ち上げ、確立するためのコストが膨大にかかる。こうした組織を立ち上げるための社会的なコストが削減されるというのが、最も大きなメリットなのかもしれない。

シェアリングの経済学

今日はGLOCOMで開催された研究ワークショップ「社会課題解決策としてのシェアリングエコノミー ~人材・地方の遊休資産を再活用するインパクト」に参加者として参加した。

先日の情報文化学会の基調講演もそうだが、最近シェアリング・エコノミーについて考える機会が増えている。

シェアリングが可能になった背景には二つの意味での取引コストの削減がある。

一つは、ICTによって空いた部屋、空いた車、空いた時間(労働力)などに関する需要と供給を可視化し、マッチングが飛躍的に効率化したことだ。

しかし、もう一つ重要な取引コストの低減がある。それは、評判と信頼の可視化により、不確実性や機会主義的行動という取引コストを削減したことだ

C to C(コンシューマーとコンシューマー)が直接やり取りするシェアリングでは、階層組織による監督機能がないため、とりわけ提供側に付随する不確実性や機会主義のリスクが増大する。例えばライドシェアに乗せた後に料金を水増ししたり、遠回りしたりといったことだ。あるいは、部屋を借りたら清掃が行き届いていなかった、ということもありうる(もちろん、利用者側の不確実性も存在する)。

こうした不確実性が高まると、市場で取引することはできず、企業組織によって上司からの監督という形で品質を保証することで不確実性を回避することになる。

こうした不確実性について、シェアリングではレーティング(評価)という形で回避している。さらに、決済機能を外部化することで、支払いにまつわる不確実性や機会主義を低減している。C to Cのシェアリングが機能するためには、こうした不確実性の回避は不可欠なものだ。

最近のシェアリングサービスの普及は、ICTにより取引コストが低減されるのであれば、階層的組織でなくともサービスを提供できることを示している。それは、ヒエラルキーから分散型・マーケット型のサービス提供形態への転換の可能性を示している。

その一方で、それがいわゆるC to C、すなわち生活者同士のシェアという思想に基づくものか、あるいは新しいプロフェッショナルなサービスの提供形態なのかは明らかではない。

また、シェアリングは一面では個の権限の増大を示しているが、一方ではネットワーク効果を背景とした仲介事業者のスーパースター化を伴う可能性があることにも注意が必要だろう。

 

情報文化学会 基調講演

先日、情報文化学会 第24回全国大会にて基調講演をさせて頂く機会がありました。

「オープンデータ・シェアリング・ブロックチェーンに見る分散型社会の可能性と課題」

ICTは分権化をもたらしているのか?集権化をもたらしているのか?という観点をベースにオープンデータ、シェアリング、ブロックチェーンをまとめてお話させていただきました。

分散型システムであっても、それが個のエンパワーメントをもたらしているのか、新たな集中をもたらしているのか、興味深い論点はたくさんあります。

 

 

ブロックチェーン・イノベーション2016

9月8日(木)に、国際大学GLOCOM主催でブロックチェーン・イノベーション2016というシンポジウムが開催されます!

私は基調講演やパネルに登壇します。他ではなかなか聞けない豪華なメンバーが登壇しますので、ぜひ奮ってお越しください。

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GLOCOMではこの度、GLOCOM View of the World シンポジウム2016のシリーズ第2回として、「ブロックチェーン・イノベーション2016」を開催いたします。

ブロックチェーンは、ビットコインの基盤技術として考案・発展してきたものですが、過去から現在までの取引情報を集約・連結することで取引の証明を容易に行えるとともに、その維持管理をP2P(Peer to Peer)ネットワークで行える等の特徴を持っています。ブロックチェーンは決済から、台帳管理、モノのネットワーク、組織運用まで幅広く影響を与える可能性があり、その応用は、経済システムの働きや経済全体のアウトプットに影響を与える可能性も考えられます。このような背景から、国際大学GLOCOMでは、本年3月より「ブロックチェーン経済研究ラボ」を設置し、技術動向を調査するとともに、ブロックチェーンの社会実装が、経済・社会の諸側面にどのような影響を与えうるか研究を行ってきました。
我が国においては、この数年の間、基盤技術から社会への応用に至るまで、幅広く技術開発やPoC(Proof of Concept)が行われてきました。その一方、ブロックチェーンをどのように使うことができるのか、今後どのような社会をもたらすのか、未知数の部分も少なくありません。そこで、本シンポジウムでは、様々な角度からブロックチェーンを取り巻く現状と課題に光を当てることで、ここまでのブロックチェーンの展開を概観するとともに、今後の発展可能性や日本経済への影響について考えます。

日時

2016年9月8日(木)13:00-17:00

会場

千代田区立日比谷図書文化館(B1F 日比谷コンベンションホール)

定員

120名

参加費

7,560円(税込)

主催

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)
国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ

後援

経済産業省(予定)

プログラム

13:00-13:05 開会のご挨拶

13:05―13:45
基調講演「ブロックチェーンの概要と可能性」
高木 聡一郎(国際大学GLOCOM 主幹研究員)
13:45―14:30
特別講演「情報システムとしてのブロックチェーンの可能性(仮)」
榊原 彰(日本マイクロソフト株式会社 CTO)

14:30-14:40 休憩

14:40-15:30
パネルディスカッション①「ブロックチェーンと通貨の未来」
岩下 直行(日本銀行 決済機構局 審議役・FinTechセンター長)
武宮 誠(ソラミツ株式会社代表取締役/共同最高経営責任者)
高木 聡一郎
【モデレータ】田中 秀幸(東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 教授)

15:30-15:35 小休憩

15:35-16:45
パネルディスカッション②「ブロックチェーンの安全性と汎用性を考える」
楠 正憲(ヤフー株式会社 CISO Board / 国際大学GLOCOM 客員研究員)
榊原 彰
佐野 究一郎(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長)
高城 勝信(日本IBM株式会社 ブロックチェーン・アーキテクト)
松尾 真一郎(MITメディアラボ 研究員) ※遠隔参加
【モデレータ】高木 聡一郎

 

 

 

 

Economic Impact of Open Data

Our paper is here. Estimation of the impact of open data on the economy in macro-level using DSGE analysis.

Abstract
This study regards the data owned by national and local governments (public data) as infrastructure that will support the future development of Japanese society and economy. This article estimated the volume of public and private database assets and the impact of the provision of public sector data as open data on Japanese macro-economy.
The study estimated the value of data stocks owned by administrative bodies as well as
private corporations by regarding them as “database assets”, and simulated the impact of the provision of public data as open data on Japanese macro-economy. The estimated value of data assets comes to about 2.7 trillion yen for private sector data and about 3.7 trillion yen for public sector data. The provision of public data as open data was estimated to boost up GDP by 158.6 billion yen to 701 billion yen, depending on the assumed parameters. The study clarified the potential of public data to be used as a new type of infrastructure and showed the effect of such use quantitatively by estimates based on published data, thereby could contribute to the related fields of study.

 

Ethereumの実応用:Arcade Cityによるドライバーの企業所有

ブロックチェーンの発展形であるEthereum(イーサリウム)は、通貨の代わりにプログラムを載せ、稼働させることができるブロックチェーンの枠組みである。Ethereum自体はまだ2015年7月に運用を開始したばかりであり、実際の活用はまだまだこれからだと思われていたが、Arcade Cityという企業がイーサリウムを活用した興味深いビジネスを開始した。

Arcade Cityは、Uberのようなライドシェアリングのサービスを提供する。プレスリリースによると、ドライバーがこの会社の所有者になること、そして、より多くの自律性を手に入れることに新規性があるようだ。

例えば、ドライバーが料金を自由に設定することができるほか、配達や乗客のサポートなど付加サービスも自由に行うことができる。

そして、Ethereumの仕組みを使って、ドライバー自身がこの会社の所有者になるということである。

「Arcade City has begun integrating its service with blockchain technology using a decentralized application platform called Ethereum, similar to Bitcoin but more suitable for governing peer-to-peer interactions. Arcade City will use Ethereum to issue ‘crypto-equity’ to drivers, allowing them to own up to 100% of the company by 2020.」(プレスリリースより)

具体的な仕組みは明らかになっていないが、Ethereumで発行するトークンが株(エクイティ)となるのだろう。これは、よく議論されているDAO(Distributed Autonomous Organization)の一例ともいえる。

但し、これは株の持ち分の話だけであるので、これ自体は別にEthereumでなくてもできるかもしれない。

問題は、各ドライバーが完全独立自営業者として働くよりも、Arcade Cityの一員として働いた方がより多くの付加価値を生み出すことができるかどうかである。そのためには、Arcade Cityならではの何らかの統一的な付加価値が必要だろう。その企業としての付加価値を高めるために、ドライバーが働くことで、自分のエクイティの持ち分が増える、あるいはエクイティの価値が上がるような仕組みが内在化されていれば、新しい組織形態として非常に興味深いことになる。

この辺については、仕組みについて続報が待たれるところである。