Facebookの仮想通貨Libraの経済学的論点

Facebookが主導する仮想通貨Libraが発表された。Libraは27のパートナー企業とともに、Libra Associationによって管理・運営されるという。

これまで、ブロックチェーンを用いたビジネスモデルは多種多様なものが構想され、実証され、一部は実際に運用されてきた。ブロックチェーンの価値記録の特性を活かして企業が経済圏を作るというのは、活用方法としては王道であり、目新しいものではないが、27億人というFacebookのユーザー数を考えたとき、その規模の大きさは、これまでの取り組みに類を見ないものである。

システム的なおさらいをしておくと、今回提案されているLibraはLibra Associationの意思決定をつかさどるLibra Association Councilのメンバー企業、すなわち初期の27の立ち上げメンバー企業が、一台ずつノードを出し合うパーミッションドの構成で作られる(通常、この形態はコンソーシアムと呼ばれる)。パーミッションドは透明性やオープン性の点で課題も多く、ブロックチェーンの良さを引き出しているとは言えない面もあるが、その点はLibra側も十分認識しているらしく、ホワイトペーパーでは運用開始後5年以内にパーミッションレス(オープン)なブロックチェーンへの移行を目指すとしている。

その本気度は、スマートコントラクト用に新たなプログラミング言語「Move」を開発してまで進めていることからもわかる。ゆくゆくは、だれもがMoveで書いたコードをLibra Blockchain上で動かすことができるようになるという。マネーだけでなく、グローバルなロジック動作の基盤までをもインフラ的に提供することになれば、そのインパクトは大きいだろう。

Facebookメッセンジャーなどで、簡単にお金を人と人の間で送金できるようになれば、新しいお金の流れや経済活動を生み出すことも期待される。ホワイトペーパーが謳うように、Financial Inclusionにも貢献することもあるかもしれない(本当に金融にアクセスできない人が使えるようになるかは注視する必要があるが)。

このように、様々な可能性を秘めたLibraであるが、課題も山積している。情報経済学の視点から、論点を整理しておきたい。

1. 巨額の運用資金の投資先

Libraは既存資産による裏付けを行う点に最も大きな特徴がある。ペッグするわけではなく、Libraを販売した際に受け取ったフィアットマネーで、各国通貨や国債を買う。それらの資産はLibraリザーブと呼ばれ、Libraの価値の裏付けとなっている。また、リザーブの時価によってLibraの価格が変動するという仕組みになっている。

そして、Libraが実現した際に最も特徴的なのはその潜在的な規模である。既存のペイメント手段で見ると、アリペイは2017年時点において、5億人のユーザー数で預かり資産が24兆円ともいわれている。これは、一人4.8万円デポジットしたことになる。これをFacebookのユーザー数27億人に当てはめると、約130兆円の預かり資産となる。もっとも、これはLibraが相当成功した場合であって、一人あたり1,000円のデポジットとしても良いが、その場合でも預かり資産は2兆7000億円となる。

日本の年金を運用しているGPIFの預かり資産は120兆円、米国債の毎年の新規発行額は100兆円前後なので、もしLibraがアリペイ並みの成功を収めれば、国際金融秩序にもそれなりの存在感を持つことになるだろう。

つまり、Libraリザーブが特定の国の国債や株を大量に購入すれば、それらを買い支えることも可能であり、また急に売却すれば混乱させることもあり得る。リザーブの運用に関する透明性やガバナンスが課題となるだろう。

2. 運用益の問題

上記のように巨額の資金を国債等で運用することになるが、仮に130兆円規模になれば、1%の利息でも年間1兆3000憶円の運用益が得られる。こうした運用益は利用者には分配されず、Libraの運営者の運営資金や、初期投資者(つまり立ち上げに参画した27社)に分配されるとされている。これは、Facebookをはじめとして参画に関わった各社にとっては大きな収益機会となるだろう。

一方で、利用者がこの状況に黙っているかどうかはわからない。アリペイなら預けているお金で資産運用ができる「余額宝(ユアバオ)」、WeChat Payにも同様の「零銭通(りんせんつう)」というサービスがある。お金を生み出す可能性のある資産が、ただ寝かされている、あるいは持ち主に還元されない、という状況は経済学的には考えにくい。

今後Libraのブロックチェーンはスマートコントラクト機能の充実も含め、よりオープンなプラットフォームになるとされている。そこで、サードパーティが資産運用サービスを展開することも考えられるかもしれない。デポジットしたお金の運用益がどうなるかは、ホワイトペーパーで書かれているように単純に済むかどうかは不透明であり、また今後のビジネスチャンスにもなり得るだろう。

3. 取引所と価格形成の問題

Libraはフィアットマネーや国債等の資産によるリザーブに特徴があり、リザーブの時価でLibraの価格も決まることになっている。この場合において、Libraと他の仮想通貨やフィアットマネーとの取引を、自由にサードパーティのマーケットプレイスに認めるかという問題がある。

というのも、自由に取引を認めた場合、Libraの価格は需要と供給によって決まることになる。ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格形成がそうであるように、買いたい人が多ければ値段は上がっていく。もちろん、新規にLibraを買い入れた場合は、その分の対価のお金でリザーブ資産を買い増せば問題は生じないが、すでに市中に発行してしまったLibraの売買を自由に市場で行った場合、Libraの価格は上がっていく一方、リザーブ資産の価値は(国債や通貨の下落等により)下がっていくという場合がありうる。つまり、Libraの時価とリザーブの資産価格から算出される価格に乖離が生じる可能性がある。

これを防ぐためには、Libraの売買をLibra Associationが一手に行い、価格はあくまでもリザーブ資産から算出された価格に一本化する必要がある。こうなると、両替をAssociationが独占的に担う形になり、両替ビジネスの独占性という点でも注意が必要である。両替のスプレッドから生じる利益も巨額になる可能性があるためである。なお、スプレッドの存在はホワイトペーパーでも認めている。

ホワイトペーパー上では取引所を自由に設立することをエンカレッジするとなっているが、果たしてLibraの価格形成が安定的に行えるのかは詳細に検討する必要があるだろう。

おわりに

イングランド銀行のマーク・カーニー総裁が、(Libraのような規模になると)公共財としての金融システムという側面があり、それを民間企業にゆだねることが妥当かと指摘しているが、投資先や運用益の問題など、規模が大きいがゆえに生じるガバナンス上の問題ともいえる。今後の詳細検討や公聴会での議論に注目したい。

書籍『デフレーミング戦略』予約開始

私の新著『デフレーミング戦略 アフター・プラットフォーム時代のデジタル経済の原則』が、Amazonにて予約開始となっております。7/16発売予定です。

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プラットフォーム、キャッシュレス、ニューリテール、信用スコア、ブロックチェーンなど最新のテクノロジーとビジネス動向を踏まえ、今後のビジネスモデルから組織の形、働き方までを幅広く論じています。

その核となるキーワードとして『デフレーミング』(フレーム:枠が崩壊するという意味の造語を提示しました。

どうぞお手に取ってご覧ください。

内容紹介(Amazonより)

本書の目的は、「デフレーミング」という概念でデジタル化がビジネスや経済に与える本質的な影響を明らかにすることです。

「デフレーミング」とは、枠(フレーム)が崩壊するという意味の造語。デジタル技術が社会経済に与える影響を理解するための共通的なフレームワークとして、ビジネスモデル、企業のビジネス戦略から、私たちの働き方、キャリア設計、学び方にいたるまで、あらゆる変化をとらえる鍵となります。

デフレーミング戦略とは、伝統的な製品、サービス、組織などの「枠」を越えて、それらの内部要素をデジタル技術で組み直すことで、ユーザーにより最適化されたサービスを提供できるようにすること。従来の「サービス」や「組織」といった「枠」がなくなる時代に、万人に受けるパッケージ化されたものから、ユーザーに個別最適化されたものに転換させ、企業という枠で仕事を受発注するのではなく、個人のスキルやリソースを個別に特定して取引するビジネスの考え方です。

本書では、その様々な現象や事例を通じて、今後のビジネスやサービスの変化を考察するとともに、近年クローズアップされている「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)についても、それが社会に与える深い影響を、明らかにします。

【本書に出てくるトピック、キーワード】
・デフレーミングというフレームワーク
・デジタルトランスフォーメーション
・GAFAの今後の展開
・中国 アリババ、テンセント、Line,WeChat、インスタグラム、美団、ZOZO
・個人の信用経済と決済、電子マネー
・プライバシー問題
など

 

ZMP自動運転タクシー実証実験

本日、ZMP社と日の丸交通が手がける自動運転車によるタクシーの実証実験に参加し、六本木から大手町のルートに乗車した。取り急ぎ感想をメモしておきたい。

事前にスマホアプリからルートを選択して日時を予約しておき、無人のタクシーに乗車するというシナリオである(実証実験なので実際には乗務員とスタッフが同乗する)。決済は事前にクレジットカードを登録しておくので、降車後に自動的に精算される仕組みだ。

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六本木ヒルズの乗り場

 

時間になると、カープールから指定の乗車場に自動運転でやってくる。随分慎重な運転で、おずおずとやってくるという印象(といっても、六本木ヒルズの車寄せは車が多く、人間でもある程度慎重にならざるを得ない)。

 

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乗車位置に車が到着

 

アプリで車のQRコードを読み込むとドアが開き、乗り込む。車内のタブレットで諸々確認ボタンを押すと、ドアが閉まって自動的に動き出す。

六本木から大手町のルートは、なかなか大変なルートである。そもそも六本木ヒルズの車寄せ自体が複雑で車が多いし、人間でも迷いそう。六本木通りも車が多く、また流れも早く、路駐も多い。

運転自体は、概ね問題なく進んでいく。時折ギクシャクした感じはあるが、初心者の運転者よりはスムーズといった感じ。ただし、人間と違う部分がいくつかある。

  • 車線を厳守して走るので、カーブで少し内側をカットしたりしない。よって割と急カーブで曲がる場合もある。
  • 人間だと隣車線の車ともう少し距離を取りたくなるような場面でも、動じずに車線をキープ(多分レーダーでは安全な距離という判断だろう)。

ごく稀に介入が必要な場面はあったが、95%は何の問題もなく進んでいき、そのうち自動運転であることを忘れてしまいそうだった。

ただ、残り5%はネックである。例えば今回の場合、左折のために左車線に入ったところで路上駐車の車があり、しかもそこは黄色線のため右に膨らむこともできずに停まってしまう場面があった。人間だとまあ許容範囲ということで右に膨らんで通るが、ルール厳守だとどうにも動けなくなってしまう。こうした異常ケースをゼロにするのはなかなか大変そうである。

今回は無人タクシーを想定した実験とのことだったが、異常時ということも考えると、完全に無人にする必要があるかは疑問でもあった。おもてなしを主眼とするドライバーが座っていてもいいし、乗客自身が異常時の対応をしても良いかもしれない。

そうこうするうちに、大手町に到着。人間のドライバーよりは時間がかかったかもしれないが、特に問題もなく到着した印象。

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大手町に到着

 

ということで、感じた点をメモにしておく。

すごいと思った点

  • 車も多く、流れも早い複雑な公道を走るというタスクにおいて、95%は問題なくできるということは改めてすごいと思った。
  • 乗り心地などのインクリメンタルな改善は時間の問題なので、早々に解決されそう。

疑問に思った点

今回はルートも車線も事前に設定されているようだったが、ルートのインプットはどのような方法で行う必要があり、フレキシビリティがあるのだろうか。カーナビで行き先を指定できるようになるまでには、どのくらい差があるのだろうか。

こうすれば良いのでは、という提案

  • 都内の混雑道路での実証実験もすごいとは思うが、高速道路だけならもっと早く実用化できるのではないか。PA/SA間の指定で自動運転してくれれば、ドライバーとして非常に楽になる。
  • 異常ケースがゼロになることはなさそうであると考えると、ドライバーが全く無人になるというのは難しいようにも感じた。むしろ乗客自身が運転席に座ってもいいかもしれない。指定の場所に自動運転で無人の車がやってきて、乗客が乗り込む。基本は自動運転で進んでいくが、異常時は乗客が介入しても良い。到着したら乗り捨てておけば、自動でカープールに戻っていく。カーシェアに近いサービスだが、こちらの方が現実味がありそうだ。
  • 一方で、無人タクシーは、普段タクシーがあまり走っていない住宅地や郊外などで、買い物にいく際などには重宝しそう。郊外は道路もシンプルだし、停めるところもたくさんあって、異常ケースは比較的少ないかもしれない。しかも現状ではタクシーがつかまらない場合が多いからニーズもありそう。

ということで、色々と考える機会となる貴重な経験だった。ZMPと日の丸交通の皆様、ありがとうございました。

 

「美団」に見るプラットフォームの新展開

昨日まで中国を訪問し、ITサービス動向に関する調査を行ってきた。特に、上海、杭州、深センを周り、モバイルペイメント、ネットスーパー、デリバリー、無人コンビニ、シェア自転車、配車アプリなど様々な新サービスを実際に体験してきた。

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なんでもQRコードで決済する(写真は駅の券売機)

 

興味深い点は多岐にわたるが、その中で特に印象に残ったのが、デリバリーに強みを持ち、eコマースのプラットフォームを形成する「美団」である。(注:デリバリーを行うのは美団だけではないが、特に印象に残ったため美団を取り上げる。)

日本では巨大プラットフォームとして「BATJ」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ジンドンの4社の頭文字を取ったもの)が知られている。その中でも、アリババとテンセントの2社は、それぞれアリペイ、WeChat Payというペイメントを核としたサービスの幅広さと普及度合いにおいて圧倒的であった。

アリババとテンセントのプラットフォームはスマホの中で圧倒的な存在感を放つのに対して、「美団」は、リアルに街中で存在感を放っている。上海でも杭州でも深センでも、至る所に「美団」のジャンパーを着た男性が、電動スクーターで荷物を運んでいる光景を目にする。

IMG_1850 (1)上海市内にて

 

「美団」はもともと口コミサイトから始まったアプリで、飲食店の評判をシェアするサービスだったが、ここからお店のクーポンを売るサイトに発展した。日本で言えば「食べログ」と「Hotpepper」を合わせたようなものだろうか。

さらに、お店の食事をスマホアプリから注文する(あるいはクーポンを買う)と、配送員がお店に取りに行き、自宅など指定の場所まで運んでくれるというサービスへ展開した。だいたい30分から1時間ほどで運んでくれる。自宅から一歩も出なくても買い物、飲食ができるというわけである。

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「美団」のアプリ画面

 

通常、プラットフォームは「Two sided network」を構成することが多い。お店と消費者、楽曲提供者とリスナー、アプリ開発者とアプリ利用者といった具合である。GoogleもAmazonもAppleも、こうしたビジネスモデルで急成長を遂げてきており、それが長期的な競争力の源泉にもなっている。

 

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一般的なTwo-sided network

 

ところが、「美団」は実質的にお店、利用者、そして配送員の3者からなる「3 sided network」を構成しているように見える。配送員に聞いたしたところ、美団に所属しているものの、配送の注文を受け付けるかどうかは自由に判断できるとのことだった。配送員曰く、「自由に仕事をできるところが良い」とのことである。Uberやdidiのドライバーのように、かなり裁量に任されているようで、恐らくは歩合制なのだろう。配送員の裁量度合いにもよるが、プラットフォームにおいて配送員も市場的に取引している様子が伺えた。

 

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「美団」に見る3 sided network

そして、配送のネットワークをテコにして、美団はeコマースのプラットフォームとして急成長中である。

生活のかなりの部分をスマホでできるようになり、そのスピードと効率性は飛躍的に向上している。しかし、リアルな「モノ」の移動はボトルネックだ。これからは、ネット時代のスピードを発揮するアプリ開発に加えて、いかにボトルネックを解決するかが競争力のあるサービス開発の鍵となるだろう。

配送というボトルネックを押さえた美団の競争力は大きいように見える。日本でいえばアマゾンとヤマトを合わせたようなサービスを、プラットフォーム的に実現していると言えば良いだろうか。

一方、3者にわたるネットワークはどのような意味を持つだろうか。今のところ、美団は大規模なネットワークを構築しており、これから配送ネットワークを整備しなければならない後発にとってはハンデとなる。そういう意味ではネットワーク外部性による競争力は従来型の「2者ネットワーク」より高いかもしれない。

ただし、中国の場合は雇用が流動的で、より良い配送の仕事があれば容易に配送員が移ってしまう可能性もないとは言えない。実際に配送をテコにしたプラットフォームは美団だけでなく、すでに幾つかの事業者が存在する。

また、配送という鍵となる部分を配送員の裁量に任せた場合、十分な配送能力が確保できない可能性もある。注文が入りそうなのに、配送員が誰もいないため注文が成立しない、といった場合である。

一方、日本でこうしたネットワークを構築する際は、はたして十分な数の配送員を確保できるかどうかが課題だ。物流網をプラットフォーム的に実現する美団のビジネスモデルは、圧倒的な数の人材を持つ中国ならではという面もあるかもしれない。今後の展開にも注目したい。

ブロックチェーンと企業のかたち

日立製作所のExecutive Foresight Onlineに、インタビュー記事を掲載して頂きました。このサイトでは、技術と社会、経営など非常に幅広いテーマで記事が掲載されています。

私は、「新たな企業経営のかたちを探る【ブロックチェーン×経営】 ブロックチェーンが社会を変える」と題して、3回シリーズで掲載して頂きました。

第1回:価値の交換の新しいインフラ

第2回:仮想通貨を超えるさまざまな活用法

第3回:貨幣、企業、組織はどう変わる?

よろしければご覧ください。

 

 

ブロックチェーン・イノベーション2016

9月8日(木)に、国際大学GLOCOM主催でブロックチェーン・イノベーション2016というシンポジウムが開催されます!

私は基調講演やパネルに登壇します。他ではなかなか聞けない豪華なメンバーが登壇しますので、ぜひ奮ってお越しください。

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GLOCOMではこの度、GLOCOM View of the World シンポジウム2016のシリーズ第2回として、「ブロックチェーン・イノベーション2016」を開催いたします。

ブロックチェーンは、ビットコインの基盤技術として考案・発展してきたものですが、過去から現在までの取引情報を集約・連結することで取引の証明を容易に行えるとともに、その維持管理をP2P(Peer to Peer)ネットワークで行える等の特徴を持っています。ブロックチェーンは決済から、台帳管理、モノのネットワーク、組織運用まで幅広く影響を与える可能性があり、その応用は、経済システムの働きや経済全体のアウトプットに影響を与える可能性も考えられます。このような背景から、国際大学GLOCOMでは、本年3月より「ブロックチェーン経済研究ラボ」を設置し、技術動向を調査するとともに、ブロックチェーンの社会実装が、経済・社会の諸側面にどのような影響を与えうるか研究を行ってきました。
我が国においては、この数年の間、基盤技術から社会への応用に至るまで、幅広く技術開発やPoC(Proof of Concept)が行われてきました。その一方、ブロックチェーンをどのように使うことができるのか、今後どのような社会をもたらすのか、未知数の部分も少なくありません。そこで、本シンポジウムでは、様々な角度からブロックチェーンを取り巻く現状と課題に光を当てることで、ここまでのブロックチェーンの展開を概観するとともに、今後の発展可能性や日本経済への影響について考えます。

日時

2016年9月8日(木)13:00-17:00

会場

千代田区立日比谷図書文化館(B1F 日比谷コンベンションホール)

定員

120名

参加費

7,560円(税込)

主催

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)
国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ

後援

経済産業省(予定)

プログラム

13:00-13:05 開会のご挨拶

13:05―13:45
基調講演「ブロックチェーンの概要と可能性」
高木 聡一郎(国際大学GLOCOM 主幹研究員)
13:45―14:30
特別講演「情報システムとしてのブロックチェーンの可能性(仮)」
榊原 彰(日本マイクロソフト株式会社 CTO)

14:30-14:40 休憩

14:40-15:30
パネルディスカッション①「ブロックチェーンと通貨の未来」
岩下 直行(日本銀行 決済機構局 審議役・FinTechセンター長)
武宮 誠(ソラミツ株式会社代表取締役/共同最高経営責任者)
高木 聡一郎
【モデレータ】田中 秀幸(東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 教授)

15:30-15:35 小休憩

15:35-16:45
パネルディスカッション②「ブロックチェーンの安全性と汎用性を考える」
楠 正憲(ヤフー株式会社 CISO Board / 国際大学GLOCOM 客員研究員)
榊原 彰
佐野 究一郎(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長)
高城 勝信(日本IBM株式会社 ブロックチェーン・アーキテクト)
松尾 真一郎(MITメディアラボ 研究員) ※遠隔参加
【モデレータ】高木 聡一郎

 

 

 

 

スマート・コントラクト・カンファレンス

昨日は、虎ノ門ヒルズで開催されたスマート・コントラクト・カンファレンスに登壇。二つのセッションでモデレータを務めさせて頂いた。

特別対談:スマートコントラクトが社会にもたらす影響
Joseph Lubin × Marley Gray × Andrew Keys × 高木聡一郎

ブロックチェーン産業の未来×スタートアップ
野口 悠紀雄 × 佐野 究一郎(予定)× 佐藤 智陽 × 高木聡一郎

一つ目のセッションでは、ブロックチェーンは従来のシステムに対して何が違うのか?どのように社会は変わっていくのか?を中心に議論。議論していく中で、いろいろと気づくところはあったが、やはりブロックチェーンは「データ構造」がシステムの外に出たことで、様々なシェアがしやすくなってきたということ。その一方、単なるデータではなく、プログラムやサービスとバンドルされている。その辺のバンドル/アンバンドルの切り分けが重要だと感じた。そういう観点から、「The DAOの一件」についても取り上げたが、聴衆の方にはこの論点が結構受けたようだった。

二つ目のセッションでは、ブロックチェーン産業をどう盛り上げていくか、日本はどうかかわるべきかという議論。「日本」という枠組み自体に意味があるのかという議論もありつつ、結局は「個の力」の重要度が増しているという議論に。「個の力」を発揮する人々を日本企業がどう活用できるか、あるいは企業に勤めている人々がどのように「個の力」を存分に発揮できるようになるか。その辺がブロックチェーン業界においても、また日本経済全体にとっても重要になるように感じたセッションだった。

 

イノベーションをめぐる構造変化

「事業構想」さんに、インタビュー記事を掲載して頂きました。

誰がイノベーションに必要な情報を持つのか 「エッジ」に宿る力

ここで言おうとしているのは、情報の力によって、ヒエラルキーの合理性が失われつつある部分があるということです。

うまくまとめていただいているので、よろしければご覧ください。

 

エッジ・イノベーションの時代

IT分野の学生で、就職先として比較的新しく小規模な企業、いわゆるベンチャー企業を選ぶ場面が少しづつ増えているという。もちろん、これまで就職先人気ランキングの上位といえば、日本を代表する大企業の指定席だったし、現在も全体の傾向として、人気ランキング上位をこれらの大企業が占めていることには変わりない。

しかし、ことIT分野に限っては、少しづつ事情が変わっているようである。これらの人材はなぜベンチャー企業を目指すのだろうか?

本人にとっては、やりがいがある、裁量があるなどの理由があるだろう。しかし、もっと大きな視点でみれば、イノベーションの発信地として、新興の中小企業、あるいは個人が台頭しつつあることがある。これらのイノベーションの発信地を、大企業・大組織と対比して「エッジ」と呼ぼう。

エッジにおけるイノベーションが存在感を増している本質的な理由はは、イノベーションにもっとも重要な資産が「情報」になりつつあることである。

「Information wants to be free;情報は自由になりたがる」といったのはスチュワート・ブランドであるが、情報という資産は他の資産、例えば旋盤加工技術やプラントの機械と異なり、社会の隅々まで容易に行き渡る。ソフトウェアを開発する技術(知識)も情報なら、そこで出来上がるプロダクト(ソフトウェア)も情報である。

大組織でなくとも、こうした知識としての情報、財としての情報にアクセスすることは容易である。したがって、エッジにおいても最新の情報にアクセスし、新しいプロダクトやサービスを産み出すことが可能になる。そう考えると、優秀な人材が、自らのスキルをいかして、もっともイノベーションを産み出せる場としてベンチャー企業を選ぶのも一理ある。

一方、大組織のメリットは、規模の経済をいかすことだ。大量に作ることによるコスト削減、大規模な投資や研究開発、大規模・長期間にわたるプロジェクトを引き受けるだけのリスク受容力などが強みである。実際に、IT分野でも巨額の投資が必要になる分野では規模の経済が活かされている。Microsoft, Apple, Google, Amazonなどもそうである。(もっとも、これらの企業はスタートアップから急速に巨大企業に成長した)

ただ、もしこうした規模の経済をいかすための組織が、逆に足かせになるようなら要注意である。固定的な人事制度、過去の成功体験、重層的な意思決定などは、業務によっては有益で実際に機能してきたが、スピーディーなイノベーションにとっては阻害要因となる可能性がある。

しかし、それでは大企業はどうすればいいのか?

いくつかの対処が考えられる。まず、エッジにおいてイノベーションを産み出しているベンチャー企業との連携である。それぞれが持つ強みをいかした事業創造ができるかもしれない。

もうひとつは、エッジにおけるイノベーションに適した人事・組織づくりである。現場・若手への権限移譲、意思決定の簡素化、リーン・スタートアップの採用など、IT業界で生き残っていくためには必要な施策ではないだろうか。(ただし、制度間の相互依存関係などもあり、制度の見直しが用意ではないのは青木昌彦先生が提唱する比較制度分析でも指摘されている)

一方で、大企業にしかできない仕事があるのも事実である。不確実性の高い案件、大量の人員を抱える必要のある案件、長期的な投資が必要な案件など、余力のある大企業でなければできない分野も多々あるだろう。

こうした分野で力を発揮しつつ、「エッジ・イノベーション」時代に合うよう、制度を見直し、ベンチャー企業と大企業双方が強みを発揮していくことが必要ではないだろうか。

 

自動運転車の経済効果

自動運転車、すなわち人が関与することなく自律的に走行できる車が話題である。Googleの自動運転車が一時期話題だったが、最近ではトヨタをはじめ主だった自動車メーカーはほとんど何らかの形で取り組んでいると思われる。

この自動運転に関係して興味深い記事がNew York Timesに出ていた。カーナビの話である。(記事:Navigation Systems Still Show the Way, but Also Make the Route Safer

ここ数年、スマートフォンの普及と、安価なナビアプリに押され、カーナビは苦戦を強いられていたが、自動運転の盛り上がりで、再びカーナビにチャンスが巡ってきたというのである。自動車のレーダーやカメラで把握できる範囲は限られているが、3次元で精度の高い地図は自動運転に必須であり、こうした地図はカーナビの得意分野であるという。そして、カーナビは車にビルトインされるという特性を生かして、スマートフォンよりも車の操作により深く関与することができる。

同記事は、アウディ、BMW、ダイムラー等のコンソーシアムが28億ドルでノキアのHEREと呼ばれる地図ビジネスを買収したのもこうしたカーナビ復権の一環を示しているとする。スマートフォンの普及で窮地に立ったかと思われたカーナビが、自動運転との連携で復権する可能性が見えているのは興味深い状況である。

ところで、同記事にはもう一つ面白い論点があった。

それは、運転アシスト機能に、消費者がお金を払うかは別問題というものである。

同記事は、自動車メーカーが先進的なドライバー補助機能が標準装備になると考えているとも伝えている。確かに、最近でいえばブレーキアシスト機能や白線をまたぐ際の警告など安全支援機能が増えているが、だからと言ってそれに高いお金を払うか問えば別問題だというのである。

この調子でいけば、自動運転機能の付いた車に対して、ユーザーがどれだけ高い値段を払ってくれるかは微妙だということになるかもしれない。結局のところ、特に普及車に対して消費者が払える金額は決まっているため、自動運転技術は付加価値ではあるものの、追加の利益がもたらされるというよりも、対応していないメーカーに対する競争優位性という形で成果が出るものかもしれない。

もっとも、イノベーションに対して逆にユーザーが高いお金を払っているものの例に、電動アシスト付き自転車というものがある。これは明らかに普通の自転車より高額だが、これは電動アシスト機能自体にコスト(限界コスト)がかかっていることと、元の価格が安いために、ユーザーがプラスアルファで払ってもよいと思う余地があるためだろう

そのようなわけで、自動運転車は自動車メーカー間の相対的な競争力に変化をもたらす可能性があるものの、付加的な収入につながるかはまだ注視が必要であろう。むしろ、自動運転車が言われているような効果を実現できれば、外部効果の方が重要かもしれない。すなわち、安全性や環境への影響、輸送・物流などへの影響である。そういう意味では、自動運転車の開発で影響を受けるのは、実は自動車業界以外になるのかもしれない。