ブロックチェーンと企業のかたち

日立製作所のExecutive Foresight Onlineに、インタビュー記事を掲載して頂きました。このサイトでは、技術と社会、経営など非常に幅広いテーマで記事が掲載されています。

私は、「新たな企業経営のかたちを探る【ブロックチェーン×経営】 ブロックチェーンが社会を変える」と題して、3回シリーズで掲載して頂きました。

第1回:価値の交換の新しいインフラ

第2回:仮想通貨を超えるさまざまな活用法

第3回:貨幣、企業、組織はどう変わる?

よろしければご覧ください。

 

 

ビットコイン分裂から考える「分散性」の課題

最近、巷を騒がせているビットコインの分裂問題。一時は分裂は回避されたとする見方もあったが、8月1日以降、BitcoinとBitcoin Cashに分裂するという見方が強くなった。執筆時点では、実際にBitcoin CashがBitcoinから分裂し、新たな通貨としてドルに対する値付けもされているようだ。

この分裂問題は、そもそもはビットコインの機能改善を狙ったものだ。機能改善の方法に複数の提案がなされており、どれを採用するかで単一の解決策へ合意形成ができなかった場合に分裂が起こるというものである。

改善すべき機能というのは、いわゆる「スケーラビリティ問題」と呼ばれるもので、現状では1秒間に7取引しか処理することができないというものである。このままビットコインが普及していけば(あるいは現状でも既に)処理が間に合わず、ビットコインの決済機能自体の信頼性が失われることが危惧されている。

ところで、ビットコインには下記のように、様々なステークホルダーがいる。

  • マイナー(ブロックを作成し、台帳を維持する役割)
  • 開発者(ビットコインを動かすためのソフトウェアの開発者)
  • 取引所運営者(ビットコイン等の仮想通貨の取引を仲介する事業者)
  • 一般ユーザー(ビットコインを投資や決済目的で使用するユーザー)

このうち、機能改善に向けて様々な提案を行ったり、ソフトウェアを開発するのは、通常②の「開発者」である。彼らは、ビットコインの開発者コミュニティの作法に従い、改善策を提案し、実際に改善版のソフトウェアを作成する。中には①マイナーと②開発者を兼ねる主体もいるかもしれない。改善案は、BIP(Bitcoin Improvement Proposals)に番号が付いた形で提案される。これまで出てきた改善案は、以下のようなものだ。

 

主な機能改善案

BIP91

これは、取引データの圧縮とブロックサイズの倍増をセットで行う「Segwit2x」と呼ばれるものを内容とする。前半のSegwitとはSegregated Witnessの略で直訳すると「分離された検証」すなわち、署名を分離するという意味である。各取引データに付いていた署名の一部を、ブロックごとにまとめて行うことで、取引データごとのデータサイズを小さくして、結果的に一つのブロックに入る取引データを増やすものだ。2xは見た通り2倍という意味であり、現在1メガバイトの制限があるブロックサイズを、倍の2メガバイトにする。

この改善案をどう決定するか、その意思決定方法についても提案されている。ある時点から約2日半の期間に作成されたブロックのうち、80%以上のブロックにSegwitに賛成するという意思表示が書き込まれていた場合、ブロックチェーン全体がSegwitを採用することとし、対応していないものは無効とするというものだ。ちなみにブロックに意思表示を記入するのは上記の①マイナーである。この手順でSegwitが有効かされたのち、6ヶ月以内にブロックサイズの2倍への拡張も行われることになる。

 BIP148

UASF(User Activated Soft Fork)とも呼ばれる。上記のSegwitのみを行うという提案。但し、その決定方法がBIP91とは異なり、投票によって集団的な意思決定を経ることなく、強制的にSegwitを支持していないブロックを不正とみなす。従って、Segwit対応ブロックチェーンと、非対応ブロックチェーンで分裂する可能性がある。
※但し、これはSegwitがなかなか実現しない場合にのみ発動されるもので、現時点では上記BIP91が十分な賛成が得られたため、BIP148が発動されることはないと見られている。

Bitcoin Cash

Segwitを行わず、ブロックサイズを8MBに拡張する。Bitcoin Cashを推進するグループは、投票などによらず、機械的に8月1日にこの仕様に基づくソフトウェアで運用を開始する。これにより、ビットコインは従来のものとBitcoin Cashに分裂する。なお、この提案を指すものとして、UAHF(User Activated Hard Fork)やBitcoin ABCと呼ばれることもある。

 

異なる合意形成手法 

これらの改善案は、スケーラビリティ問題に対する改善案はいずれも大きく異なるものではない。取引データを小さくしてブロックにたくさん入るようにするか、ブロックサイズを大きくするかというものであるし、その大きさが若干違うという程度のものだ。

しかし、より大きく異なるのは、その合意形成手法である。そもそもビットコインには、台帳のバージョンに対する合意形成は優れた設計がなされているものの、その仕組みの更新に関する合意形成手法は組み込まれていない。そのため、各提案の中に合意形成手法も併せて提案されることになる。

BIP91はマイナーによる投票を行い、8割以上の賛成によって全体を移行させることを目指す。集団的意思決定において反対者も含めて全体に影響を与えるという点では、投票による民主主義と似ているおり、理解しやすいだろう。(実際に8割以上の賛成を得ることができた。)

BIP148は投票を経ずに、強制的にあるタイミングで全体を移行させることを目指す。この場合、合意形成プロセスは何ら経られていないので、賛成派と反対派で分裂する可能性がある。

Bitcoin Cashは、BIP148と同様に投票を行わないが、そもそもビットコインをバージョンアップさせることを目的とするのではなく、別のコインに分岐させることを目指している

 

分裂の原因とコスト

BIP91と148は、曲がりなりにもビットコインそのものをバージョンアップすることを目指しており、最悪の場合は分裂する可能性を含んでいるというものだ。分裂する可能性があるのは通常の民主主義の手続きと異なり、少数派が多数派の決定に従わなければならない機構は存在しないためである。したがって、少数派であっても、自らの仕組みを信じ続ければ、その仕組みで運用を続けることは可能である。その場合は誰からも相手にされないコインを管理し続けることになるかもしれないが、一定の人数が集まれば、仮想通貨として生き残ることは可能かもしれない。

このように、ビットコインの分裂は、多数派の意見を全体に強制する仕組みが無いという仕組み上の問題から発生している。こうした分裂は、ビットコインの機能の進化という点では評価できる一面もある。しかし、原則的には、分裂の際には利用度に応じてコインの時価総額も主流コインと分岐コインで分割されることになるだろう(制度ではなく、市場の評価による)。そうなれば、主流コインのみを利用し続ける利用者は損をすることになるため、分裂のたびに複数のコインを管理しなければならなくなる。したがって、こうした管理コストについても考慮しておく必要があるだろう。

 

意思決定への参加者

また、もう一つの問題は、誰がこの分岐の意思決定に関わるのかという問題である。現状では、合意形成における意思表示は、ブロックを作成する係であるマイナーが、ブロックに埋め込む形で行われる。したがって、投票権を持っているのはマイナーたちである。マイナーも一人一票持っているわけではなくあくまでも作成できたブロックに対して一票ということになり、ブロックを多く作成できるマイナーは多くの票を持つことができる

ところで、マイナーは上位5社で半分以上のシェアを持っている。上位5社で、投票権の半分を持っているということになる(https://blockchain.info/pools参照)。

もともと、マイニングには誰でも参加することができる。しかし誰がブロック作成を優先的に行うか決める必要があり、そのためにProof of Workといういわば「誰にでもできる」計算処理を課すことにした。しかしその「誰にでもできる」という特性は、単純な計算能力の競争をもたらし、結果としてマイナーの寡占化につながってきた。機会の平等は確保したが、結果の平等は保障されないということである。

こうしたマイナー寡占化という問題は以前から指摘されていたものの、台帳管理だけでなく、ソフトウェアのバージョンアップのような重要な意思決定という場面を迎え、新たに脚光を浴びることになるかもしれない。(但し、一般ユーザーやトレーダーの行動が分岐したコインの価格に影響を与え、この価格が間接的にマイナーの行動に影響を与えるとの考え方もある。詳細はこちらを参照。)

 

社会的アーキテクチャも含めた進化の過程

こうした分裂問題に関する混乱は、Bitcoin Cashによって、それが現実に起こりうることが明らかになったことで、今後も起こる可能性は十分にあるだろう。分裂には一定のコストもあり、分裂を防ぐには少数派を多数派の意思に従わせるという権力機構が必要になるだろう。

それでは、これまでの社会的なアーキテクチャに逆戻りすることになるようにも見える。それよりは、多少のコストを払ってでも、分裂を繰り返しながら進化していくことを見守ることも必要なのかもしれない。

 

 

※本記事は執筆者の個人的見解を提供するものです。本記事に記載された情報によって生じるいかなる損害についても、一切責任を負いかねます。投資等は各自の判断にて行うようにしてください。