AIはAIの顔をしてはやってこない

以前も取り上げたが、人工知能の議論のなかで、「人工知能」や「ロボット」がやってきて人間の仕事を奪う議論がある。

しかし、AIはAIの顔をしてはやってこないのではないだろうか。

どういうことかといえば、人間から見れば、電子レンジだったり、冷蔵庫だったり、自動車だったり、玄関のドアだったり、様々な製品が、今までよりちょっとだけ賢く便利なものとして市場に登場してくると考えたほうが良いのではないかと思う。あるいは、今まで世の中になかった便利なサービスも登場するかもしれないが、表から見ればAIとは気づかないかもしれない。

今までより便利なサービスの裏側に、AI(というより機械学習的な仕掛け)あり、データ分析があるだろう。また、こうした改善された製品を実現していくのは、AIだけではなく、それ以外の様々な機能(通信、センサー、動力機構、エネルギー等)のイノベーションによる貢献も大きいだろう。

ただ、AIは、データを一箇所に集めてアルゴリズムを改善するという側面があり、そこには規模の経済が働きやすいことには注意が必要だ。

要は、AIを「独立した何か」と見るのではなく、「ユーザーに便利なサービスの裏側にあるもの」と考えて、その裏側で何が起きているのかを考える視点が必要なのではないだろうか。

いまさら聞けないブロックチェーン(4)

「いまさら聞けないブロックチェーン(2)」で、取引データの構造については説明したが、その構造を使って、どのように取引を確認できるかについては深く触れなかった。そこで、今回は取引データに含まれた公開鍵や電子署名を使って、どのように取引を確認することができるのか、整理してみたい。

なお、ここで取引の確認と言っているのは、「誰が、誰に、何を渡したものか」をどのように論理的に確かなものにできるかという意味である。

その(2)では、以下の図を使用した。「太郎→花子→次郎」の順で支払う場面を想定したものだ。

 

取引2

 

ここでは、あっさりと「解ければ使える」と書いているが、この具体的な意味や方法が今回のお題である。

上段は、太郎が花子に支払う場面である。右の方のPubkey Scriptに花子の公開鍵ハッシュ値が入っている。これは支払の宛先を意味する。公開鍵ハッシュ値は、公開鍵をハッシュ処理して短くしたものである。公開鍵は誰でも見られるものなので、花子の公開鍵は、誰でも持っている可能性がある。そのため、花子の公開鍵を持っているというだけでは、宛先に指定された本人であるか確認できない。

重要なのは、花子の公開鍵に対応する秘密鍵を持っているかどうかである。秘密鍵はその名の通り秘密裏に保管してあるので、対応する秘密鍵を持っていれば本人であるとわかる。秘密であるがゆえに、「ほら、ここに秘密鍵がありますよ」と見せるわけにはいかない。では、どうやって秘密鍵を持っていることを確認するのだろうか

ここで、もう一度公開鍵暗号の基礎をおさらいしておきたい。以前も使った図だが、再掲する。

公開鍵

家の鍵に例えれば、公開鍵を使って右に回すと暗号化される(左図)。復号するには、秘密鍵を差し込んでさらに右に回し、一回転して元に戻る。逆回転も可能で、秘密鍵を使って、左に回す。そこから、公開鍵を使ってさらに左に回して一回転すると、元の情報に戻る。この仕組みを使うと「電子署名」ができる。

署名

 

この「電子署名」の仕組みを使って、花子が本当に花子の公開鍵に対応する秘密鍵を持っていることを証明するのが重要なポイントだ。これを具体的に見ていこう。

ステップ1:宛先の確認

まず、上段には宛先として花子の公開鍵ハッシュ値が入っている。そして、下段には花子が自分のものだと(この段階では自称)する公開鍵の本体が入っている。この二つを照合するのが第一段階だ(下図)。

宛先の確認

 

これは単純な作業で、下段で、花子が自分のものだと称する公開鍵のハッシュ値を作成し、上段で宛先として指定された公開鍵ハッシュと照合する。これが一致すれば、確かに「宛先に指定された人が、そのリソースが自分のものであると主張しようとしている」ことが確認できる。

ステップ2:電子署名の作成(事前準備)

問題は、それに対応する秘密鍵を持っているかどうかである。そのためには、事前準備として花子は電子署名を作成・提供する。下段のSignaure Scriptに入っている「電子署名」がそれである。電子署名は以下のような手順で作る(下図)。

署名の作り方

 

まず、上段の取引からトランザクションID、Output Index、そして花子の公開鍵ハッシュすなわち宛先が入ったPubkey Scriptを取り出す。図の青い部分だ。これはお金(リソース)の出元がどれかを明らかにするものだ。そこに続いて、下段の取引から金額と次の宛先である次郎の公開鍵ハッシュを含むPubkey Scriptを繋げる(繋げる順番はこの通りではないかもしれない)。これは緑の部分で、これからどこへリソースを渡そうとしているかを示すものだ。

これに電子署名を付けるわけだが、通常はこれをハッシュして小さくしたうえで、花子の秘密鍵で暗号化(署名)する。公開鍵方式の左回しの方法だ。これが電子署名といわれるものである(図の紫の部分)。この電子署名は下段の取引のSignature Scriptの一部となる。

ステップ3:電子署名の検証

そして、いよいよこの電子署名を検証する番である(下図)。

署名検証

 

署名検証では、花子の公開鍵を使う。これは下段の取引で提供された花子の公開鍵で、上段の取引で宛先(ハッシュ値)として指定されたものと同じものであることがステップ1で確認されている。

電子署名(紫)を花子の公開鍵で復号して元に戻すと、あるハッシュ値(図中の「ハッシュ値(B)」)になるはずだ。公開鍵暗号の左回し方式である。

そして、ステップ2でハッシュ値を作った元となった情報(青と緑)を再度取引データから集めて、ハッシュ値(A)を作成する。このハッシュ値(A)と(B)を照合して、一致すれば、花子が上段の取引で宛先に指定された公開鍵に対応した秘密鍵を持っていることが証明される

ここで注意すべきは、「花子さんがどこの誰であるかは問題になっていない」ということである。ここで証明されたのは、以下の二点だ。

  • 上段で指定された公開鍵に対応する秘密鍵を確かに持っている人である。
  • したがって、上段で支払われたものを使う権利を持っている。

ところで、この方式が証明するのは、単に花子が公開鍵に対応した秘密鍵を持っていることだけではない。署名の対象はリソースの出元と行先、金額が含まれる。従って、花子がこれらの取引について、確かに行ったことが確認されるのである。但し、再度言及すれば、この公開鍵ペアと実在の人物との対応関係を証明する仕組みにはなっていないので、そこは注意が必要である。

いかがだろうか。ブロックチェーンは、取引データに巧妙に電子署名を用いることで、確実に資産の移転を実現しており、他人が資産を勝手に使ったり、後から取引を改ざんしたりすることができない仕組みとなっている。また、今回はビットコインを前提として解説しているため、取引の対象となっているのはビットコインの金額(Amount)である。しかし、金額以外のものをこの仕組みに入れても、同様に活用できそうなことは想像が付く。この辺が、ブロックチェーンの応用が期待されるゆえんである。

 

ブロックチェーンと電子政府

英国政府の科学庁(Office of Science)は、「Distributed Ledger Technology: beyond block chain」(PDF)というドキュメントを発表した。これは、ブロックチェーン技術を政府業務や公的な目的にどのように使えるか、その可能性を検討した結果をまとめたものだ。

大臣2人が前文を執筆したこのドキュメントは、ブロックチェーン技術が強力で革新的なものであり、公共と民間双方のサービスを変容させて生産性を向上させるものだとする。そして、公共サービスをよりパーソナルで、タイムリー、効率的なものにすることができるとしている。

しかし、政府は具体的にどのようにブロックチェーンを活用できると考えているのだろうか?

本レポートでは、ブロックチェーンの持つ3つの側面に着目している。

  1. 仮想通貨アプリケーション
  2. スマートコントラクトをはじめとする契約のイノベーション
  3. ブロックチェーン関連ビジネスの育成による経済成長

そして、これらを活用した以下の5つのユースケースを示しているので、それらを見ていきたい。

ケース1:重要インフラの防御

ブロックチェーン技術により、ソフトウェアの改ざんを即時に検知する仕組みを作り、重要インフラのソフトウェア改変による影響を防ぐ。

ケース2:社会保障支出の運用改善

社会保障支出に際して、仮想通貨等を利用することで受給者へ直接受け渡すことを可能にして、中間的な取引コストを削減する。また、ブロックチェーン技術で受給者のなりすまし等を防ぐことで、不正受給を防ぐ。

ケース3:国際援助の運用改善

仮想通貨によって国際送金にかかる為替コストを削減するとともに、スマートコントラクトを活用して、被援助者が現地政府の関与なしに自ら契約履行できる仕組みを構築する。また、中間組織を介在せずに、直接的に支援を必要とする人に支援物を届けることを可能にするとともに、本来の目的に沿った用途以外では使えないような仕組みを組み込む。

ケース4:取引コストの削減とイノベーションの推進

知的財産、特許、遺言、公正証書、ヘルスデータ、年金等の登録にブロックチェーン技術を活用することで、中小企業にとっての取引コストを削減する。また、マイクロペイメントの考え方を活用して新たな公的業務とビジネスのやり方を開発する。市民は自分のパーソナルデータがどのように使われているのか管理できるようになる。

ケース5:付加価値税の徴税

スマートコントラクト等を活用して、徴税漏れを防止する。
以上を概観するだけでも、英国政府がブロックチェーンの活用可能性をかなり幅広く見ていることがわかる。その一方で、技術開発・応用はまだ始まったばかりで、これから幅広いステークホルダーと連携して進めて行く必要があるとも述べており、そのための8つの提言をしているところである。

ところで、ブロックチェーンの活用可能性について、英国政府は先に述べた3つの観点を挙げていたが、私としては以下の3つの観点に整理してみたい。

取引コストの削減
資産の登録や移転処理に関する取引コストの低下によって官民の負担を軽減し、経済成長を後押しする。

改ざん検知力の向上
ブロックチェーンの考え方を用いて、情報資産の改変を防止したり、早期に検知する。

情報資産の流通コントロール力の向上
情報資産の移転がどこで、どのように使われたかを管理する。これによって、個人も自分の情報のコントロール権が向上するだけでなく、情報資産の利用に応じた課金なども可能になる。

まだまだブロックチェーンの応用については議論が緒に就いたばかりで、過大な期待が先行している可能性もある。今後より詳細な検討が行われていくだろう。