オープンデータの限界費用と限界便益

政府・自治体がデータを公開し、民間で利活用する「オープンデータ」。(狭義のオープンデータで、Open Government Dataとも言う)

データを公開するかしないかの意思決定は、基本的にはデータを保有している政府・自治体側にあるが、限界費用と便益の関係からみると、自然状態ではなかなか難しいことが分かる。

というのも、データを公開するためには、たちまち様々なコスト(役所内の調整、ウェブサイトの準備、データの選定、加工など)がかかる一方、そこから得られる便益はすぐには立ち上がらないからだ。(下図参照)

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費用については、データを公開するとなった時点で庁内説明や公開手順の整理など、様々なコストが発生する。しかし、これらのコストは時間とともに手続きにも慣れ、追加のコストは低下する。

一方の便益については、少ないデータが公開されても、それだけで大きな価値を生み出すことは考えにくい。小さなデータであっても大多数の自治体から公開されたり、多くの分野をカバーするようになれば、利用する側も注目するようになるだろう。後者はショッピングモールのようなもので、多様なデータが公開されていれば、そこを訪問するメリットが増えるため、全体の価値が規模とともに増える可能性がある。

そのため、初期の段階ではコストが便益を大きく上回る。いかにコスト(赤線)を下方にシフトさせるか、あるいは便益(青線)を上方にシフトさせるかが重要になる。

コストの赤線を下方にシフトさせる方法としては、

  • 政府全体が方針として出すことで説得のコストを下げる
  • 手順・手続きの雛形を示す
  • 共通的なプラットフォームを用意する

などが考えられる。すでに政府等各方面からこのような取り組みが行われている。

一方、便益の青線を上方にシフトさせる方法としては、

  • 利活用側の体制を整備する
  • すぐにデータを組み込めるようなアプリケーションを増やす

などが考えられる。Code for Japanのような利活用側のコミュニティの興隆や、ゴミナシなどのアプリケーションは便益の青線を上方にシフトさせるものだ。

いずれにしても、ここでのポイントは、データ公開の判断を担っている自治体にとっては、単独・短期で見ればコストが便益を大きく上回っている状況にあることを理解しておくことだ。

このような状況の中で長期的な視野に立ってデータ公開に踏み切る自治体を応援するとともに、なかなか踏み切れない自治体に対しても、なんとかコストと便益の差を埋める方法がないか考えることが建設的なオープンデータ推進のあり方ではないだろうか。