ブロックチェーン技術の応用可能性

ブロックチェーンという言葉には馴染みがなくても、ビットコインという仮想通貨の名前は聞いたことがあるかもしれない。

ブロックチェーンはビットコインの中核技術である。煎じ詰めて言えば、全世界のビットコインに関する取引をぎゅっと圧縮して、電子署名をつけたようなものだ。一つ一つの取引(ブロック)が繋がったものなのでブロックチェーンと呼ぶ。ちなみに、ハッシュという関数を使って一定の長さに圧縮されるので、取引が増えたからといってブロックチェーンが無限に長くなるわけではない。

このブロックチェーンのおかげで、ビットコインが送られたことを証明することができる。ビットコインに所有権があるかどうかはまた別の論点だが、仮想的にはコインの所有権がある人から別の人に移ったことになる。

ところが、このブロックチェーンの考え方は、ビットコインに限らず様々な資産の管理・移転に応用することができる。この点について、既に様々な検討が進んでいることをNew York Timesが伝えている(記事:Bitcoin Technology Piques Interest on Wall St.)。

同紙によると、例えば、ブロックチェーンによって音楽配信に伴う著作権処理を細かく行うことができる。 また、バーモント州政府では、州政府が管理する様々な記録について、ブロックチェーンの技術を使えないか検討中だそうである。あるいは、Nasdaqが検討しているところによると、ベンチャー企業などが株式に代わって、より細かく資金調達を行えるようになるかもしれないとのこと。

すなわち、ブロックチェーン技術を使えば、あらゆる資産について、今までより遥かにきめ細かく、また極めて小さな取引コストで、その管理・移転が行えるようになる可能性があるのだ。

それ以外にどのような活用可能性があるだろうか。

例えばオープンデータを含む”オープン”なデジタルコンテンツは、無料であることが重要な要件の一つと見なされていることが多い。それは、わずかな金額であっても課金することで、取引にかかるコストが発生し、情報の流通を阻害するからだ。しかし、ブロックチェーン技術で遥かに低いコストでデジタルコンテンツの資産管理や課金が行えるとすれば、従来のオープンかクローズかだけでなく、マイクロ課金を伴うコンテンツ流通ということもありうる。

例えば、クラウドソーシングで作成するロゴマークなども、利用状況やクリック数に応じて収入を得るといったこともできるかもしれない。

ITの経済的インパクトの代表は、取引コストの低下である。ブロックチェーンは、あらゆる取引における取引コストを大幅に削減する一般技術となりつつあるのかもしれない。

個人情報サービスの需要と供給

昨今のWebサービスは無料のものが多い。しかし、お金を払う代わりに、我々が差し出さなければならないものがある。それは、通常我々の個人情報だ。

氏名、住所、電話番号、職業、年収などなど、サービスによって求められる情報はさまざまだ。そのサービスを受けるのに途中まで入力したものの、そんなに情報を提供する必要があるならやめよう、ということで途中で入力をやめてしまった経験もあるのではないだろうか。

ということは、個人情報は通貨のようなものであるとも言える。たくさん出すならサービスを使わない。ちょっとしか出さなくて良ければ使いたい。もし通貨のアナロジーが通じるならば、経済学の需要と供給の法則もあてはまりそうである。個人情報がもし通貨だったら、需要と供給からどのようなことが言えるだろうか。

通常の需要と供給は以下のような図で表される。

個人1

需要は右下がり、供給は右上がりである。単純にいえば、需要(購入側)は安いほどたくさん欲しい。供給(提供)側は高いほどたくさん売りたい。二つの線が交わったところが均衡点であり、市場における取引はこの点の価格と量で行われる。

この需要曲線を個人情報に単純に置き換えたものが下記の図だ。(直線なのになぜ曲線というのか疑問かもしれないが、慣例としてこう呼ばれている)

個人2

提供する個人情報の量が少ないほど、Webサービスをたくさん使いたい。たくさん提供しなければならないなら、プライバシーの懸念があるので、あまり使いたくない。

しかし、実は別のケースがあることに気がつく。FacebookやTwitterなどのSNSは、ユーザー登録に必須の情報はかなり少ないが、多くのユーザーが自ら望んで多くの個人情報を掲載している。職歴、趣味、昨日何をしたか、最近買ったものは何か・・・。自分たちがより多くの個人情報を提供するにつれ、より強くそのサービスを使いたいという欲求が生まれているともいえる。(本人は、友人とシェアしているだけで、SNS企業に提供しているつもりはないかもしれない。)

すると、この需要曲線は次のような形になる。

個人3

驚くべきことに、C型である。提供する個人情報が多いと使いたくなくなるが、一定の量を超えてくると、逆にもっと使いたくなるのである。これを、「個人情報サービスに関するC型の需要曲線」と呼んでみたい。

これに供給曲線を載せると、以下のようになる。

個人4

需要と供給が交わるポイントが2つあることがわかるだろう。おそらく、点Aのほうは個人情報をたくさん提供するほど使いたくなるサービスで、SNSのようなものにあてはまる。一方の点Bは、通常のWebサービスであり、個人情報を提供することはやむを得ないものであり、少ないほど嬉しいはずだ。

つまり、個人情報を通貨と見立てて、需要と供給で分析すると、均衡点は2つあることがわかる。それは、個人情報の提供が自ら望んでいる場合と、やむを得ない場合の2つのケースがあるからである。個人情報と通貨は、似ているところもあるが、違うところもあることがわかるだろう。

Ad blocker: 広告ブロッカーとウェブサービスの将来

Webユーザーにとって、見たい情報の上に大画面の広告が表示されたり、サイト自体は表示されているものの、右上に派手に動く動画広告が表示されるのは、もはや一般的な経験だろう。

あるいは、あるサイトを見た後に別のサイトに移動したのに、前のサイトで見ていた商品が表示される。Cookieという技術を使った行動ターゲティング広告と言われるものだ。

こうした広告を、もちろん不快に感じるユーザーもいるだろう。

そんなユーザーのために、Ad blocker、すなわち広告ブロッカーと呼ばれる種類のプラグインソフトが世の中に存在する。その普及はうなぎ上りだそうだ(New York Times)。さらに、今年の秋に登場するiPhoneのためのOS 9では、この広告ブロッカーが標準装備されると報じられている(New York Times)。

オンライン広告の中には、人によって不快に感じるだけでなく、そのウェブサイトの動作を遅らせる場合もあるそうだ。だから、広告ブロッカーは広告が不要と思う人にとっては朗報だろう。また、上記の記事(後者)によれば、広告ブロッカーは広告を全面的に広告を遮断するだけではなく、基準に適合した、動作が軽く、透明性の高い広告だけを表示させるような機能があり、それを通じてより適切なオンライン広告の普及につながることが意図されている。

しかし問題はいうまでもなく、世界のWebサービスの多くが、オンライン広告によって支えられているということだ。新聞をはじめ、様々な便利なサイトやサービス、コミュニティサイトなど、これらを構築し、運用する費用は、ユーザーがサイトにアクセスするたびに表示される広告からの収入によって支えられている。

こうした現象の理解には、Two-sided market、あるいはTwo-sided networkと呼ばれる理論が役に立つ。新聞サイトであれば、片方に読者のネットワークがあり、もう片方に広告主のネットワークがある。それぞれにネットワーク効果が働き多ければ多いほど価値が高まるが、二つのネットワークが相互依存しており、両方が存在しなければこのサービスは成立しない。

Eisenmannらの論文では、この2つのネットワークは通常対等ではない。片方が”subsidy side”、もう片方が”money side”だ。後者が費用を負担し、前者がそれを受ける。SNSで言えば、広告主が後者であり、前者である一般ユーザーは広告主が支払う広告料でsubsidy、すなわち補助されている。

そして、彼らの論文で最も面白いのは”cross-side”ネットワークである。すなわち、subsidyとmoneyの2つのネットワークをまたいだネットワーク効果によって、そのサービス(あるいはプラットフォーム)の価値が決まる。

広告ブロッカーはWebサイトのユーザーにとっては良いが、もう一つのネットワークである広告主にとっては打撃であるのは間違いない。そうなれば、Two-sided marketのmoeny sideがダメージを受け、当然cross-sideのネットワーク効果も失われるだろう。

考えられる解決策の一つは、「ユーザーが本当に欲しがる広告を表示させる」ことである。「そうだ、こんな情報欲しかったんだよ」と思うような情報を表示させ、しかもそれがなんらかのマーケティングにつながることだ。しかし、そのためにはユーザーの情報をかなり集め、分析する必要があり、プライバシーとのいたちごっこである。

2つ目は、月並みだがコンテンツの有償化である。欧米のネットニュースなどでは、無料で見られる記事数を制限し、それ以上は有料会員でなければ見ることができないものもある。

最後の可能性は、広告に変わるmoney sideネットワークを見つけることだ。しかし、すぐに現れるのは難しいかもしれない。

いずれにせよ、難しい問題である。ユーザーにとって広告が不快であれば、ブロックしても良いだろう。しかし同時に、自分が見たい情報を集め、提供するコストを誰がどのように負担するのが望ましいか、今後も検討していく必要があるのではないだろうか。

難民とスマートフォン

数百人の人々が、今にも難破しそうな木造船にすし詰めになりヨーロッパを目指す。こうした光景をニュースで目にする機会が多くなっている。多くの人たちが紛争地帯を逃れてきた人々だ。

2015年8月27日付のNew York Timesは、こうした人々に関する非常に興味深いレポートを掲載した。

A 21st-Century Migrant’s Essentials: Food, Shelter, Smartphone
(邦訳:21世紀の移民の必需品:食糧、屋根、そしてスマートフォン)

メディアの役割を再認識するような素晴らしい記事なので、英語が苦にならない方はぜひ原文を読んでいただきたい。

「新しい国に到着して最初にやることは、SIMカードを買ってインターネットに接続し、地図をダウンロードして自分がどこにいるか確認するんだ。」

彼らはスマホなしには目的地に到着できないという。そして、たくさんの仲間たちがヨーロッパに渡るにつれ、さらに状況は変わってくる。

「数千、数万の人々が旅を終えるに従い、彼らはその経験をソーシャルメディアを通じてシェアする。スマホのGPSで自動的に記録されたルート沿いの全ての中継地でさえも。」

こうして、スマホとネットコミュニティでシェアされた情報を頼りに、生きる希望を抱きつつ、危険を冒してヨーロッパへ旅立っていく。

テレビ越しに難民船を見ているだけではわからない現実がここにはある。

そして、最先端のテクノロジーやサービスが、ここでは他とは比較にならない重要性を持っている。

ユニコーン:1000億円規模のスタートアップ候補たち

「ユニコーン」を聞いたことがあるだろうか?

バンドの方ではない。スタートアップ企業のうち、1000億円以上の企業価値を持つような企業のことを、その希少性から一角獣になぞらえて「ユニコーン」と呼ぶ。

New York Timesにょると、Facebook, LinkedInなどが上場前にすでに企業価値1000億円を超えていた。それらに続くメガ・スタートアップは生まれるだろうか。

New York Timesは、次のユニコーン候補たち50社をリストアップした。なかなか興味深いのでここで紹介したい。詳細な企業名などは記事を直接ご覧いただきたいと思うが、ここでは私なりに独自に集計してみたいと思う。

50社を都市別に集計すると以下のようになる。

都市名      ネクスト・ユニコーン数

  1. カリフォルニア       28
  2. ニューヨーク        8
  3. 北京            3
  4. シカゴ           2
  5. ボストン          2
  6. ベルリン          1
  7. ロンドン          1
  8. ニューデリー、インド    1
  9. 上海            1
  10. グーガオン、インド     1
  11. ケープタウン、南アフリカ     1
  12. バージニア         1

いくつか興味深いことがあるのでコメントしたい。

まず、やはりカリフォルニアが最大勢力である。シリコンバレーだけではなく、カリフォルニア州内にやや分散しているが、スタートアップの集積地としては盤石である

注目は第2位にニューヨークが入っていることだ。少し前から、ニューヨーク、特にブルックリンにITベンチャーが集積しつつあると言われていた。以前はベンチャーといえばシリコンバレーかボストン近郊かであり、それはスタンフォードとハーバード&MITに依るところが大きかった。しかし、ニューヨークという金融と商業の中心地でベンチャーが生まれつつあることは、純粋な技術だけではなく、様々な商取引との組み合わせでビジネスアイデアが生まれてきていることを示唆している。

そして、日本が入っていないことにも触れないわけにはいくまい。関係者からは「だってアメリカでの調査でしょ?日本ことを知らないだけだよ」という声が聞こえてきそうである。しかし、中国、インド、南アフリカまで入ってるのも事実である。日本が入っていないのには二つの理由が考えられる。

  •  純粋に1000億円規模になりそうなスタートアップがいない
  • アピール不足、認知不足

前者だとすると残念な感じもするが、後者だとしても(むしろその方が)課題としては大きい。なぜなら、こういうところで認知され、取り上げられることがサービスのユーザーベースを広げ、投資を引きつけるからである。

次に、サービス分野別に見る。

分野 ネクスト・ユニコーン数

  1. eコマース            13
  2. 健康・医療          6
  3. 金融                     4
  4. ロボット              3
  5. ソフトウェア       2
  6. ビッグデータ       2
  7. マーケティング   2
  8. 業務系                 2
  9. 人材                     2
  10. 予約                     2

そのほかに、ID、クラウド、コミュニケーション、コミュニティ、シェアリング、セキュリティ、デバイス、ファッション、マーケットプレイス、モバイル、教育、人工衛星が各1社づつ入っている。

分野別にみると、非常に幅広いことがわかるだろう。中でも最大のeコマースは、分野に特化したオンライン販売・配送サービスが多い。食料品の配送などが代表的である。多くのサービスは全く目新しいサービスというよりも、今まであったサービスについて、特定の顧客ニーズに特化するようにデザインされているものが多い。逆に言えば、極めて斬新なアイデアでなくても、普通の生活者として思いつくようなものでも良いということだ。

ネクスト・ユニコーンになるには、すごいアイデアを思いつくかどうかではなく、いかに形にして始めるか、そのためのサポートや環境が整っているかが重要なのであろう。

シリコンバレーが移民規制に反対

以前、米国共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏の移民規制案について書いたが、これに対してシリコンバレーのIT企業群が反対しているという。(Tech news today:1328)

反対の中心となっているのはForwardusという業界団体で、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ氏などが中心となっているそうである。

米国のIT企業は移民に依存している部分も多い。先日発表されたGoogleの新体制においても、Googleの新CEOとなったのはインド出身のピチャイ氏だった。

そんな米国のIT企業にとって、移民を制限することは自分たちの国際競争力を阻害する問題でもあるし、何より日頃一緒に外国出身の優秀なスタッフと働いていると、移民を制限することには抵抗を感じるのだろう。

ちなみに、各国の移民流入数は下図の通りである。
immigration

出典:OECD International Migration Outlook 2014より作成。カナダ、アメリカはPermanentとTemporaryの合計。

見ての通り、米国は日本の約30万人に対して270万人と、約9倍の移民流入がある。前にも書いたとおり、移民の受け入れは複雑な問題であるが、米国のIT企業が多様な国の出身者で支えられているのも確かである。

その意味では、米国のIT分野の活気は「アメリカ人」というより、「アメリカ的エコシステム」が象徴するものなのだろう。

1ヶ月で起業家になる

ここ最近の様々なインターネットビジネスの成長は目覚しいものがある。TwitterからFacebook, そしてAirbnbからUberなど、数年前には世の中に存在していなかったものが猛烈な勢いで成長し、世界の多くの地域で人々の生活に影響を与えるものになっている。

こうしたサービスの多くは、比較的若い世代の起業家が始めたものが多い。大学で情報工学を専攻し、学生時代に立ち上げたサービスをそのまま商用化して起業というストーリーは良く聞く話である。

だから、プログラミングなどやったことがない、文系だ、という人々には、こういうサクセスストーリーは関係ないと思ってしまうかもしれない。だが、実はこうした未経験者、あるいはノンプログラマーがTechビジネスを立ち上げるというケースが出始めている。

2015年8月25日付のInternational New York Timesは、体に障がいをもつ若者2人のストーリーを報じている。この若者の一人はロンドンで弁護士をしていたが、障がい者ユーザに役に立つAirbnbのようなサービスを立ち上げたいと思い、One monthというeラーニングでRubyを学び、プロトタイプを作って投資家からの支援を得た。このサービスはAcommableとして提供されている。

One monthでは文字どおり1ケ月、わずか月50ドル程度の授業料で様々な技術的知識と起業に必要なスキルを学ぶことができるそうだ。

最近、人工知能の発展で、雇用が失われるのではないかという議論が活発になっている。ブリニョルフソン&マカフィーの「機械との競争」、フレイ&オズボーンの「Future of employment」などをきっかけに議論が高まっているが、これといった対応策は明確ではない。

そのような中、短期間に新しいスキルを習得してキャリアチェンジができるようになることは、一つの可能性を示している。もちろん、誰でもできることではないし、やりたいことでもないかもしれない。また、International New York Timesが報じているように、このようなキャリアチェンジには「Learn how to learn」(学び方を学ぶ)ことが必要だ。

そのような意味では、昨今大学教育のあり方が議論されているが、「Learn how to learn」こそが、これからの時代に必要な教養、すなわち教養2.0であるとも言えるかもしれない。